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#52 ハラペーニョに込めたい、「旨みと信念」

古川農園
古川元輝もときさん

郡山市では、新規就農を志す方向けに、1年かけて栽培技術を学べる、
「こおりやま園芸カレッジ」を毎年開設しています。
実家を継ぐ形で2022年に就農した古川農園・古川元輝さんも、園芸カレッジの卒業生の1人です。

古川さんは専門学校卒業後、歯科技工士として就職をしたところから、キャリアが始まりました。約10年間のキャリアを持つ古川さんが農家に転職して主にチャレンジしているのは、サルサなどには欠かせないメキシコ原産のとうがらし「ハラペーニョ」作りです。ハラペーニョは日本では京都府・京丹波町が日本で一番の生産量ですが、近年は温暖化の影響もあり、愛知県や長野県など、近隣の都道府県でも、生産をはじめるケースが増えています。

今回、三穂田町の農園にお邪魔し、ハラペーニョへのこだわりから、地元・家族・今後の夢まで、熱意いっぱいのお話を伺いました。

「会社員の頃から、朝早く起きるのが苦手でした(笑)」

米と鯉の養殖を生業とする農家に産まれた元輝さんが農業を志すようになったのは、歯科技工士になった20代前半のころ。一番の動機は「代々続いてきた家族の財産である農業を、自分の代で終わらせたくない」という想いが芽生えたことがきっかけだったと語ります。

子供の頃から農家として勤しむ家族の姿を見て、当初は「朝早く起きるのが苦手だった自分ができるのかすごく不安」だったそうですが、それも昔の話。

「いまは早朝3時30分に起きて4時から7時まで収穫、そこから選別作業を行っています。農家時間にも慣れました。」

農業を本格的に学ぶため、郡山市が開設している「こおりやま園芸カレッジ」に2022年に入校。種まきから収穫まで、ゼロから農業のことを本格的に学び始めた当初は、漠然とトマトを作ろうと考えていたといいます。

「ハラペーニョは高校生の頃から大好きで、趣味の家庭菜園レベルで作っていましたが、生業として農業をやるなら、収益性も考えてトマトなんかにした方が良いのかな、なんて思ってました。」

しかし、研修施設で学ぶ中で、トマトは自分の性格的に向いてないと思い、きゅうりとハラペーニョをメインにしていく事に。

「トマトは細やかな気配りが必要で、繊細な作物。僕はどちらかと言うと失敗もしながらトライ&エラーするようなスタイルなので、自分のスタイルに合った作物を選んだ結果、きゅうりとハラペーニョになりましたね。」

カレッジでの1年間の学びを経て、2年目から本格的に実家の農園で農業を始めることに。

「最初はすごく戸惑いました。こんなに作る土地が違うと、育ち方も全然違うなっていうか。特にハラペーニョは土地に合う品種を色々と試したり、試行錯誤しました。2年目になった今は、去年の試行錯誤のおかげか、ハラペーニョの収穫量が比較的安定してきたなと感じています。」

「辛いだけじゃなくって、旨みのあるハラペーニョを作りたいんです。」

国産のとうがらしとハラペーニョの違いについて、元輝さんはこう語ります。

「見た目的には大きさが全然違いますが、中身で言うと、ハラペーニョの方が肉厚なので、ただ辛いだけじゃなくて、辛さの後に旨みが感じられるところが、普通のとうがらしと違う所だと思います。そんなハラペーニョの良さを前面に出せるように、どうしたら旨みの強いハラペーニョを作ることができるのか、今色んな品種を試しています。」

高校生の頃から大好きだったハラぺーニョ。大人になってからはハラペーニョをきっかけに、メキシコ料理やテキーラまで興味が広がり、テキーラマエストロの資格まで取得した元輝さん。今は、ハラペーニョを活用した6次化商品づくりにも取り組んでいます。

「皆さんに、ハラペーニョをもっと身近に感じてもらいたいという想いで、いまはピクルスを作っています。色んなスパイスを試していますが、シンプルに旨みを感じてもらえるものにしたいと思っています。」

そんなハラペーニョへの想いに溢れた元輝さんにとって、地元や家族の存在が原動力になっているといいます。

「農家になったら、おじいちゃんと農業するのが楽しみでした。」

地元である三穂田町で農業を継ぐことになった元輝さんですが、就農直前に悲しい出来事が起こります。

「農業をはじめようとする直前の冬、おじいちゃんが亡くなってしまったんですね。僕にとっておじいちゃんは、背中で色々と伝えてくれた大切な人でした。すごくショックでしたが、おじいちゃんが、僕の農業をどこかで見てくれているのではという想いが、今の僕のモチベーションになっています。」

祖父・常雄つねおさんが残してくれたものを聞くと、
「おじいちゃんから言われた言葉で今も覚えているのは『色んな人に良い顔をするな。信頼できる人を大切にしなさい。』という言葉です。家族を守るために色んな作物を育て、試行錯誤してきたおじいちゃんの背中と、この言葉が、おじいちゃんからもらった僕の財産です。
本当はおじいちゃんと農業をするのがすごく楽しみだったんですが、それは残念ながら叶いませんでした。家業を頑張る姿を見せられなかったのは、僕の心残りです。」

地元への恩返しと、将来の夢

大切な祖父を亡くしたことはショックでしたが、元輝さんには恩返しをしたい人が、まだたくさんいます。

「地元で農業をするおじいちゃんおばあちゃんたちには、すごくお世話になりました。そんなおじいちゃんおばあちゃん達も少しずつ歳を重ねて、一人で農業をすることができなくなってきています。お世話になった方々への恩返しではないですが、僕の農園のお手伝いをしてもらって、孫にプレゼントを買ってあげられるような環境を、少しでも用意してあげたいなと思っています。」

地元想いの元輝さんのもう1つの夢は、メキシコ料理屋さん。

「ハラペーニョの魅力を広げていくために、素材を活かしたメキシコ料理が食べれるお店を、キッチンカーなどを使ってやりたいなと思い、東京で人気のタコス屋さんを巡って、構想を膨らませています。
オープン目標は10年後、いや、5年後ですかね(笑)」

大好きなハラペーニョで、故郷・三穂田町に貢献したい想いに溢れる元輝さん。試行錯誤を重ねながら、着実に農家として成長を遂げています。


古川農園
郡山市三穂田町富岡字一本杉5
https://www.instagram.com/furukawa__farm/?locale=ru&hl=am-et


<古川さんのハラペーニョが買えるお店>
※入荷状況によりご購入いただけない場合があります

■愛情館
福島県郡山市朝日二丁目3-35
TEL 024-991-9080
https://www.zennoh.or.jp/fs/store/aizyokan.html

■あぐりあ
福島県郡山市安積町成田1丁目20-1
TEL 024-945-7483
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1007


<古川さんのハラペーニョが食べられるお店>

■NEIGHBOR(ネイバー)
福島県郡山市中町7-14
TEL:024-983-4515

https://www.instagram.com/bar_neighbor/

<動画>ショートムービーをご覧ください。

取材日 2024.8.9
Photo by 公文 健太郎
Interview / Text by 菅原 有記 (tribeat)
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)