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#23 「手を抜かず、やれることは全部やる」。丹精込めた栽培で美しさが際立つ湖南の“箱入り”シイタケ

農事組合法人 愛椎ファミリー
小椋和信さん

農業の分野では今、家族経営による小規模農業経営体の重要性に世界的な注目が集まっています。

国連では2017年、持続的な食料生産を可能にする農業形態として家族農業を世界の「食」を守るカギと位置づけ、2019年から2028年までの10年間を「家族農業の10年」と定めることを採択しました。SDGs(持続可能な開発目標)の実現に世界が取り組む中、フロンティファーマーズで取り上げてきた家族経営の生産者のみなさんは、今後の私たちの日々の営みにますます欠かせない存在となっていくはずです。

今回ご紹介するのは、社名にまさに「家族」を掲げ、シイタケの菌床栽培に人生を捧げる親子。美しく肉厚なそのシイタケは今、市内の直売所や居酒屋、焼肉店などで大きな人気を博しています。

そのシイタケに込める想いや日々の取り組みについて、2代目として栽培に励む小椋和信さんにお話をうかがいました。

正直言うと、昔はシイタケ食べられなかったんです

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湖南町の三代みよ集落から2kmほど南に離れた中ノ入地区。400年以上前に木工職人達がこの地に移り住んだのがそのルーツで、集落の入り口では「木地師の里」の看板が出迎えます。

和信さんのお父様である兵一ひょういちさんがこの中ノ入地区でシイタケの栽培を始めたのは、今から30数年前のこと。スタートは原木シイタケでしたが、その後福島県内でシイタケの菌床栽培が広まってきたことから、2004年に菌床栽培へ移行。ほぼ同時に農事組合法人「愛椎ファミリー」を設立し、シイタケ専業農家として生産を続けてきました。

菌床栽培と原木栽培の大きな違いは、エグみや香りの強さにあります。和信さんは、原木シイタケのその強いエグみが苦手だったとか。「正直言うと、昔はシイタケ食べられなかったんです」と言って笑います。

「そもそも菌床栽培のシイタケはエグみがあまりありませんが、それに加えて、ここの水の良さがよりエグみの少ないシイタケを生むのだと思います。使っている水はすべて山からの水。お客様に“他のシイタケと何が違うの?”と聞かれた時には、“水と空気です”って答えています。」

奥羽山脈から流れ下る舟津川の清流に寄り添うように谷あいに広がる20戸弱の静かな集落。小椋さん親子のシイタケは、そんな豊かな自然環境のもとで育まれています。

最盛期には1日3,000個以上を市内外に出荷

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大学を卒業後、郡山で会社員として働いていた長男の和信さんが後継者として湖南に戻ってきたのは2010年のこと。お子さんの誕生がきっかけでした。

「父から“継げ”と言われたことはなかったですし、子供の頃は手伝いが嫌で逃げ回ってばかりいました。

でもこの間、小学校の時の担任の先生に久しぶりに会った時に言われたんです。“お前はあの頃から「俺はずっと湖南で生きていく」って言ってたよな”って。自分ではまったく覚えていないんですけどね(笑)。でも、自分は農家の長男だからという気持ちが、頭のどこかに無意識にあったのかもしれません。」

和信さんの就農後も事業は順調に拡大。今ではハウス11棟、最盛期には1日3,000個を超えるシイタケを市内外に出荷しています。2014年には、栽培における様々な工夫や品質の高さが評価され、「第38回福島県きのこ品評会」において最高賞となる林野庁長官賞(生しいたけの部)を受賞しています。

丸さ・大きさ・美しさを生むノンストレス栽培

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菌床栽培は、おがチップや米ぬか、複数の栄養材などを配合して作られた「培地ばいち」にシイタケの菌をかけ、成長を促します。多くのキノコ農家はその培地を業者から購入しているそうですが、愛椎ファミリーの培地は100%自家配合。それを毎年、雑菌が少ない冬場に約3万玉作ります。

「菌床の配合は毎年変えています。菌床一つあたりにしたら何グラム単位の違いだと思いますが、その年の気候によって育ち方はまったく変わりますから、この割合が正解というものはないのかもしれません。

冬場の2か月間は父親と2人で菌床づくりにかかりきり。それでも1日600玉作るのが限界です。しんどいし、買ったほうが楽なんですけど、自分で配合した培地でどんなシイタケが育つのか、それを見るのはやっぱり楽しみですし、やりがいがまったく違ってきます。」

また、菌をかけたあとの育て方にも、小椋さん親子には独自の理論があります。

「シイタケって、普通は菌床にストレスを与えて大きく育てるんです。水をかけたり菌床を叩いたりして速く成長させます。うちはそれとはまったく逆で、余計なストレスを与えません。気候に逆らわず自分の力で成長させます。普通の農家さんが半年ぐらいで収穫しきってしまうところを1年以上かけて育てるようなサイクルです。」

負荷を与えないノンストレスな環境により、丸さ、大きさ、美しさが際立つ小椋さんのシイタケ。時間をかけて丹精込めて育てたそのシイタケの出荷を「嫁に出すよう」だと和信さんは言います。その姿は、まさに箱入りの美しさです。

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いい加減な仕事は絶対にしたくない

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就農して10年。新しい販路の開拓などで父とは違うスタイルを模索しながら、今も兵一さんと二人三脚で仕事に取り組む和信さん。東日本大震災による栽培棚の損壊など苦労もあったこの10年を振り返り、こう語ります。

「技術は少しは身についたかもしれませんが、やっていることは10年前からあまり変わっていない気がします。シイタケの成長は毎年、毎日違うので、その違いを日々丁寧に見ていくだけですね。終わりや答えはないと思います。

何の仕事でもそうかもしれませんけど、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるんですよね。だけど、やれることがあるならばそれを全部やらなければ、本当の意味で仕事を楽しめないと思うんです。できることをしっかりやるから成長するのが楽しいのであって、いい加減な仕事は絶対にしたくない、しないと決めて育てています。」

今後は海外への輸出も視野に入れたいと語る和信さん。その愛情をいっぱいに吸い込んだ“箱入り”シイタケが世界へ巣立つ日も、そう遠くはないかもしれません。

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農事組合法人 愛椎ファミリー
福島県郡山市湖南町三代字中ノ入2590
Tel 024-982-3060
https://www.aishii.com/
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<愛椎ファミリーのシイタケが買える場所>

■愛情館
福島県郡山市朝日2-3-35
Tel 024-991-9080
http://www.fs.zennoh.or.jp/product/aizyokan/

■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1-160
Tel 024-973-6388

■旬の庭 大槻店
福島県郡山市大槻町字殿町64-1
Tel 024-966-3512
http://www.ja-fsakura.or.jp/service/tyokubai.html

<愛椎ファミリーのシイタケが食べられる店>

■居酒屋しのや 郡山駅前本店
福島県郡山市駅前2-6-3 メッソビルB1
Tel 024-983-0081

■居酒屋しのや 郡山桑野店
福島県郡山市桑野2-7-1
Tel 024-983-0787

取材日 2020.10.16
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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