#6 美容師から農業へ転身し10年。 野菜作りへの情熱を支え続ける「強く高い志」
有限会社ニッケイファーム
大竹秀世さん
前回の「フロンティアファーマーズ」に登場してくださった鈴木農場さんの存在と取り組みは今、郡山の農業界にしっかり根を張り、仲間同士の横のつながりや後進の育成にもつながっています。
今回ご登場いただくニッケイファームの大竹秀世さんも、鈴木農場さんで農業の指導を受けた経験をお持ちの一人です。この道を志して10年あまり。無農薬・無化学肥料での野菜作りにこだわり、今では年間約100種類もの作物を生産する、郡山の農業の未来を担う期待の若手の1人となりました。
そんな大竹さんに、この時代に農業に取り組む想いと、その想いを育んだ子供時代の記憶、これからの農業に抱く想いを、熱く語っていただきました。
人を喜ばせる意味では農業も美容師も同じ
大竹さんが高校卒業後に最初に着いた職業は、農業ではなく美容師。もともとはお母様が野菜を作っていらしたといいますが、病気の治療のために畑に出られなくなり、「せっかく野菜を作る場所があるのにもったいないから」という理由から農業に取り組み始めたと言います。
「高校生の時、自分の髪型の悩みを一発で解決してくれた美容師さんと出会ったんです。こっちがお客なのに自然に“ありがとうございます”って言葉が出てきて、その人に弟子入りする形で美容師の道に入りました。自分も“ありがとう”って言われたい、人を喜ばせたいと思って。
美容師って、ある意味お客さんに自分のファンになってもらう必要があるんですよね。ちょっとタレントみたいなところもあるので、コンビニに行く時にもわざわざ髪をセットしたし、カッコよく見せるためには何でもやりました。でも、それとはまったく逆と言ってもいい農業の世界に入ることになってしまった。正直、最初はやりたくなかったですよ。泥にまみれなきゃならないし。
でもある時、うちの野菜を食べたお客さんに、“ここの野菜は本当においしい、ありがとう”って言われて、ハッとしたんです。美容師でも農業でも、人を喜ばせる意味では同じなんだって気づいたんですね。他にも“子供がトマトを食べられるようになりました”って言っていただいたり、そういう言葉をたくさん聞く中で、職業に縛られていた自分の気持ちが吹っ切れました。」
しかし、農業に転身して3年ほど経った2011年3月11日、満を持して新規就農すべく市の担当者に書類を渡したまさにその日に、東日本大震災が発生。順調だったはずの大竹さんの農業の道は、一転して茨の道へと変わってしまいました。
「震災前の売上は、東京に出す分が7割、地元が3割ぐらいの比率でした。震災の年に初めて黒字になって、次の年には前年比で150%から200%ぐらいの注文の見込みが立っていたんです。ところが、震災と原発事故の影響で7割の部分がごっそりなくなってしまいました。会社としては生き残っていけないぐらいの損失ですよね。出荷しても売れないですし。
でも作り続けないと損害賠償も受けられないというので、そこからしばらくは作っては捨てるという毎日。心身共にダメージは大きかったですね。回復してきたのはようやく2年前ぐらいからです。東京で見込んでいた分は今も戻ってきてはいないですけど、その分を地元でまかなって、ようやく先が見えるようになってきました。」
虫もいない畑で「農業をやっている」と言えるのか
野菜作りにおいて大竹さんが大切にしているのは、農薬を使わず、昔ながらの農業を残していくこと。その想いの背景には、ご自身の幼少時代の経験が色濃く影響していると言います。
「昔から虫が大好きで、子供の頃はよく大槻公園とか逢瀬公園に虫取りに行ってました。高枝切りばさみの先に虫取り網をくっつけて高いところの虫も取れるようにしたり、道具にもいろいろ工夫しましたね。ドブのようなところにはザリガニがたくさんいたし、近くに普通に生き物がいたんですよ。でも、今はそうじゃない。なんでそうなったのかといえば、そもそも畑や田んぼが減ったこともありますけど、やっぱり農薬を大量に使ったからですよね。
虫って言うのは、農業において大切な伝道者でもあるんです。農業で一番ヒントをくれるのは、ちっちゃい虫たち。その動きを読み解くと、“この先こうなるだろうな”っていうのが見えてくる。だから、僕は畑に虫がいても殺さないんです。害虫とか害獣っていう考え方はあくまで人間の主観であって、虫や獣たちからすれば当たり前のことをしているだけですよね。それを、人間が生きていかなくちゃならないという理屈で殺すというのがわからなくて。
うちの子供もよく畑に遊びに来ますけど、虫もいないような畑を子供に見せて、父親として“農業をやっているんだぞ”と胸を張って言えるのか、っていう想いがあったんですね。子供が畑に来て人参を一生懸命引っこ抜いている、その横に蛙がぴょんと飛んで、「あ、蛙だ!」って言って人参を放り出して蛙のほうに行っちゃうような、そういう子供の姿って、やっぱりいいなって思いますから。
最近、うちのハウスの近くの田んぼで蛍がよみがえってきているんですよ。郡山でもそれほど奥ではない大槻あたりでも、蛍が見られる環境が少しずつ戻ってきているんです。一匹見つけただけでも僕の感動たるや半端なかったですけど、意識して環境を守っていけば、そのへんで蛍が見られる日がまた来るかもしれないじゃないですか、そういうのも、夢の中のひとつとしてはあるんです。“福の島”って書くぐらい名前の素敵なところの、郡山っていう、地名に“山”がつくぐらい自然にあふれた土地なのに、生き物がどんどん減っていったら、郡山の魅力は半減だと思いますからね。」
「自分のような“変人”が一人ぐらいいないと」
一般的に野菜作りにおいては、粘土質の土地ではいいものが作れないと言われますが、大竹さんの畑は10年前に田んぼだった場所をそのまま畑にして使っており、その土は粘土質のままだとか。しかも、牛糞も豚糞も使っていないと言います。しかし、出来上がった野菜はどれも非常に立派な実り具合。しかも、カブや人参などの場合は粘土質のほうが味が良くなるのだと大竹さんは言います。
「粘土質で作る僕のようなやり方を押し付けるつもりはありませんし、化学肥料を使っている農家さんが絶対に悪いとも僕は思っていないんです。そういう農家さんも大事だと思いますし、きれいごとばっかり言っても商売はできませんからね。
たとえそうした方向性が違っても、ちゃんとした志を持った仲間を増やしたいと思うんです。今はドローンで農薬をまくような時代だし、コンバインもAIで動くし、畑に誰もいなくても野菜が作れちゃう時代。でも、そこに感情はないですよね。大変な思いをしながらも、志を持って畑で汗を流すからこそ、こだわりのある野菜になるわけですから。そこにいきつくまでのストーリーがなくなっていくのは、人間として少し寂しいですね。」
今年、大竹さんは新たにレモン作りに取り組むそうです。寒さに弱く、ハウスで作ったとしても東北の気候では栽培は難しいと言われるレモンですが、だからこそ成功させたいと大竹さんは意気込みます。
「レモン作りがもし成功したら、ものすごい町おこしになると思っているんです。居酒屋さんでよく生レモンサワーってありますけど、あのレモンが国産だと、ちょっといいじゃないですか。しかもそれが郡山産だったら、かなり自慢できますよね。
他にも、ラディッキオ・ロッソっていう、この辺ではめったに見られない野菜の栽培にも取り組んでいます。基本は輸入でしか手に入らない、海外から高い輸送費をかけてまで輸入している料理人もいるほどの野菜です。このラディッキオ・ロッソの安定栽培が実現したら、いったい何人の人から“ありがとう”って言っていただけるか。そう考えるだけで、今からニコニコが止まらないですね(笑)。」
話の端々に地元愛を滲ませながら、郡山で農業に取り組む想いを語ってくださった大竹さん。いずれは郡山の農業をもう一段階上げたいとも話してくださいました。「そのためには、僕みたいな変人が一人ぐらいいないと」と言って笑いますが、逆境に負けることなく、また置かれた状況に甘んじることなくトライし続けるその姿勢は、まさにフロンティアファーマーそのもの。数年後、まったく新しい郡山の特産品が、彼の手によってもたらされているかもしれない。そんな期待が大きく膨らむお話でした。
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有限会社ニッケイファーム
福島県郡山市大槻町字原田5-4
Tel 024-966-0213
※直売所あり
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<大竹さんの野菜が買える場所>
■ニッケイファーム直売所(詳細上記)
営業日時:月〜土/11:00〜18:00
※畑作業などがあると一時閉める場合もあります。
■AMEKAZE West
福島県郡山市島1-11-5
Tel 024-955-6120
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<大竹さんの野菜が食べられる飲食店>
■肉と野菜の農家イタリアン Arigato
福島県郡山市安積4丁目35 1F
Tel 024-983-9678
■宴庭 燦
福島県郡山市駅前1-9-15 こくぶんビル
Tel 024-921-8808
■居酒屋しのや 郡山駅前本店
福島県郡山市駅前2-6-3 メッソビルB1
Tel 024-983-0081
■居酒屋しのや 郡山桑野店
福島県郡山市桑野2-7-1
Tel 024-983-0787
■居酒屋しのや 須賀川店
福島県須賀川市本町4-9
Tel 0248-94-4758
■ふらんす厨房 Kei
福島県郡山市虎丸町21-4
Tel 024-921-1383
■串たろう
福島県郡山市駅前1-4-7 エリート41ビルB1F
Tel 024-983-5883
■比内や サスケ
福島県郡山市中町7-19 デジプラン中町ビル別棟
Tel 024-935-8048