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#32「健康のためにはまず作物が健康でなければ」 こだわりの土で育てる“食べてよかった”と言われる野菜

森農園
森 文男さん

健康志向が高まり続けるなか、農薬や化学肥料に頼らない野菜作り、コメ作りに取り組む生産者が近年特に増えています。農林水産省の統計によれば、新規就農者の間で有機農業に取り組む割合が高く、また若い就農者に広く浸透し始めているようです。

須賀川市の森農園もそうした農法に取り組む農園の一つですが、そのスタートは非常に早く、園主の森文男さんが有機肥料を使った野菜作りを始めたのは今から40年以上前のこと。世間の多くの人々が食と健康の関係に気づく遥か以前から独自にブレンドした有機肥料やたい肥を使い、こだわりの野菜を作り続けています。

郡山市と須賀川市の境に位置する森さんのビニールハウスを訪ね、こだわりの野菜作りに至る経緯やその想いについてお話をうかがいました。

どうせやるなら、みんなに喜んでもらえるものを

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農業の道40数年。「いつの間にかベテランになってしまった」と笑う森さん。コメ農家だったお父様を早くに亡くされ、高校を卒業してすぐに後を継ぎました。「継いで当然というか、それ以外になかったというか、そんな感じだね」と当時を振り返ります。

「どうせやるならば、みんなに喜んでもらえるようなものを作りたい。」

農業を始めるにあたりそう考えた森さんは、代々続けてきたコメ作りに加え野菜の生産にも力を入れます。その一つが、須賀川を代表する農産物であるきゅうり。森さんが作るきゅうりは「ブルームきゅうり」と呼ばれ、表面にうっすらと白い粉をまとっています。この白い粉には作物の中の水分の蒸発を防ぐ効果があるとされ、果物にもよく見られるものです。

「昔のきゅうりは薄く粉を吹いているのが当たり前でしたが、今はほとんど一般には出回らなくなりました。白い粉が汚れや農薬と誤解され、粉のないピカピカのきゅうりが主流になってしまったんです。しかしピカピカのきゅうりは水分が抜けやすく、スポンジのように中味がスカスカになった商品もある。食べるなら白く粉を吹いたほうが絶対においしいはずです。」

夏野菜であるきゅうりの栽培スタートから数年後、森さんは冬場に収穫する葉物野菜の栽培にも取り組むようになります。その一つがニラでした。少しずつ収量を増やし、今では5棟のハウスで栽培。ハウスごとに少しずつ収穫時期をずらし、秋から春先にかけて出荷を続けます。

作物本来のスピードで成長を促す「爽やかな肥料」

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青々としたニラが茂る森さんのビニールハウスの中には、ほんのり酸味を感じる独特の匂いが漂います。ハウスの土に混ぜられた有機質の肥料から放たれる匂いです。

「うちのハウスでは乳酸発酵させた肥料を土の表面にかけています。乾燥させ粉末にした魚の内臓や菜種油の搾りかす、動物の骨粉、カニ殻などを独自の配合で米ぬかと混ぜ合わせた肥料です。米ぬかは微生物の栄養となるもので、発酵が促進されます。発酵によって生まれたアミノ酸は作物に吸収され、作物本来のスピードでゆるやかに、かつ病気に強い野菜へと育ちます。市販の野菜は生育を早めるために化学肥料が使われている場合が多いですが、うちの肥料はそれとは逆の考え方なんです。」

そんな独自配合の有機肥料を、森さんは「爽やかな肥料」と表現しました。

「人間に置き換えれば、メタボ体質にならないような食事を摂り、健康で爽快な体を作るということ。植物が栄養分を吸収する仕組みと、人間が物を食べて胃を通り腸の中で吸収する仕組みは同じなんです。

この肥料で育ったニラは日持ちが違います。スーパーから買ってきたニラを冷蔵庫に放置しておくと、いつの間にかドロドロに腐敗してしまうことがありますが、腐敗するのは野菜の中が酸化しているからです。うちのニラならそういうことはありません。有機肥料のおかげで酸化せずに成長し、長く味わうことができるんです。」

野菜の栄養となる肥料だけではなく、畑の土を育てるたい肥も自ら作る森さん。もみ殻と米ぬかを混ぜ合わせ、1年かけてじっくりと微生物を繁殖、発酵させます。それにより、水もちにも水はけにも優れた土を育てる良質なたい肥が出来上がります。そのたい肥が加えられた土で育ったニラは豊富な水分が魅力。鎌で切ると、その場で水分がしたたり落ちるほどのみずみずしさです。

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体にいいものって、意外と簡単には買えない。

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なぜここまで肥料やたい肥にこだわるのか。そこには、農家としての森さんのシンプルな望みがあります。

「食べておいしければ、みんな必ずニコッとなるじゃないですか。作るなら、やっぱり“食べたい、食べてよかった”と言われるものを作りたいんです。でも、そのためには作物が健康でなければならないと思います。

健康な作物を作るということは、健康で丈夫な子供を育てることと一緒です。食べたもので自分たちの体はできてるわけで、体にいいものを子供に食べさせてあげたいと考えるのと同じように、野菜にも生育にいいものを与えるのが当然だと思っています。

お金を出せば24時間どこでも何でも買える時代ですが、体を作るためにいいものって、実はそんなに簡単には買えないですよね。添加物を減らしていこうという考え方は世界的な流れですので、それにみなさんも早く気づいていただきたいですし、私も一生産者として、添加物に頼らない作物を少しでもみなさんの手に届くようにしていきたいと思っています。」

農業を子供たちの憧れの職業にしたい

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新型コロナウイルスの感染拡大以前は、田植えや稲の花見、稲刈りやその後の収穫祭、正月の餅つきなど、さまざまな農業体験の場を子供たちに提供していた森さん。いずれ感染が終息したら、またこうしたイベントを積極的に開いていきたいと語ります。

「農業を身近に感じてもらいたいし、“農業ってこんな楽しいんだよ”ということを伝えたい。そうすれば、ただお金を出して買って食べるのとはまったく違った印象を野菜に持ってもらえると思うんです。そして、できることなら農業を彼らにとって憧れの職業にしたいと思っています。

震災前、須賀川の養護学校の子供たちが農業体験に参加してくれたことがありましたが、田植えの時に最初は先生にしがみついて泥の中に入れなかった子がまわりの子の楽しそうな姿を見るうちに自主的に田んぼに入るようになったり、それまでお米が食べられなかった子供が田植えや稲刈りの体験を経てお米が食べられるようになったりすることがありました。農業体験には、生きる力を育むことや、人生観が変わるような発見があるんじゃないか。そう思っています。」

現在は息子さんも就農し、手分けしながら田畑と向き合う森さん。すでに肥料づくりを引き継ぐなど、息子さんの頑張りもあり「森イズム」は確実に次の世代へと受け継がれています。その取り組みは、今後もいろいろな姿でその枝葉を拡げていくに違いありません。

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森農園
福島県須賀川市仁井田字南町86
Tel 0248-78-2386

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〈森農園のニラが買える場所〉

■森農園
上記電話番号に直接お問い合わせください。

■銀河のほとり
福島県須賀川市滑川字東町327-1
Tel 0248-73-0331

■あさかのCSA
※季節の野菜を隔週で購入できるサービスです。
https://www.instagram.com/asakanocsa/

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〈森農園のニラが食べられる場所〉

■銀河のほとり
福島県須賀川市滑川字東町327-1
Tel 0248-73-0331

■居酒屋安兵衛
福島県郡山市大町1-3-12
Tel 024-933-9326
https://www.instagram.com/izakaya.yasubey.koriyama/

■沖縄ダイニング な美ら
福島県郡山市豊田町4-16
Tel 024-927-8417
https://www.instagram.com/okinawadaining.nachura/

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<動画>ショートムービーをご覧ください。

2022.1.26 公開
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)

<放射性物質に対する対策について>

森農園では、JAに依頼し生産するコメや野菜の放射性物質検査を実施。安全安心な野菜を出荷しています。

「震災の時は、もうどうしていいかわからなかったですね。あの年もニラや葉物は作ってたのですが、結局すべて出荷できませんでした。ただ、出荷したからといって果たして買ってもらえるかどうかもわからない。作ったのに出せないというのはやっぱり切ないですよね。

検査は今も、JAの支店に行くと検査の機械が置いてありますので、そこに持ち込んで続けています。持ち込んだその日のうちに結果が出ます。もちろん、数値はまったく問題ありません。コメは全袋検査がなくなり抽出検査になりましたが、もちろんコメも問題なしです。

震災後間もない頃、土の上と、うちで作ったたい肥の上、それぞれを線量計で計ってみると、たい肥のほうが線量が低かったんです。化学的な根拠はわかりませんが、有機肥料にはやっぱり不思議な力を持っているんじゃないかと思います。」(森さん)

参考:食と放射能について
食と放射能に関する正しい知識を身に付けましょう。
食品と放射能に関する消費者理解増進の取組(消費者庁)

参考:福島の今
知るという復興支援があります。"風評の払拭"に向けて、知ってください。福島のこと。風評の払拭に向けて、知ってもらいたいことを分かりやすくまとめました。
数字で「知って!」「食べて!」「行こう!」福島(復興庁)

※福島県産農林水産物については、生産段階(産地・生産者)、流通段階、消費段階において放射性物質の検査が行われ、安全性が確認された農林水産物のみが出荷されています。