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#43 アニマルウェルフェアに基づくストレスのない環境から生まれる「本宮烏骨鶏」の平飼い卵。その濃厚な味わい

一般社団法人本宮烏骨鶏生産組合
鶏舎リーダー
大塚利明さん


近年、スーパーや農産物直売所の卵売り場で「平飼い」の文字を目にする機会が増えてきました。平飼いとは、鶏卵の生産において長く一般的な飼育方法となっている「ケージ飼い」ではなく、鶏たちに十分な活動スペースを与え自然に近い形でストレスなく産卵を促す飼育方法のことです。

安心・安全な食品を求める消費者が増える中、家畜にとって快適な環境で飼育しストレスや疾病を減らすことで安全な畜産物の生産につなげる「アニマルウェルフェア」の考え方が世界的な広がりを見せています。その流れを受け、ケージ飼いではなく平飼いで育った鶏の卵を買い求める人が増えています。

本宮烏骨鶏もとみや うこっけい」は、アニマルウェルフェアの考え方が日本で広がり始める前から平飼いにこだわり育てられてきた本宮市の固有種です。その卵は本宮市のふるさと納税の返礼品に選ばれるなど、本宮を代表する産品として期待と注目を集めています。

「なつき過ぎだしかわいがり過ぎです(笑)」

本宮烏骨鶏は、中国や東南アジアが原産とされる烏骨鶏とアメリカ原産のロードアイランドの独自の交配研究により、1998年に誕生しました。

烏骨鶏は一般的な鶏に比べて産卵が少なく、その数は5日に1個程度。普通の卵より小ぶりですが栄養価は高く、中国では古来より漢方薬として宮中の薬膳料理や美容食として珍重されてきました。一方、本宮烏骨鶏の産卵は3日から4日に1個。本宮烏骨鶏生産組合の独自の調べによれば、その卵は純粋な烏骨鶏よりもさらに高い栄養価を持つそうです。現在の飼育数は約1,800羽で、そのうち雌鶏は1,300羽ほど。1日あたり220~230個の卵が産み落とされます。

2022年4月から組合で働く鶏舎リーダーの大塚利明さんが鶏舎に入ると、鶏たちはたちまち大塚さんに駆け寄り、手や肩に飛び乗ります。「なつき過ぎだしかわいがり過ぎですが、かわいいという気持ちはなかなか抑えられなくて」と笑います。1日の作業は朝の8時から。まずは卵を集め、その洗浄や検査、選別、パック詰めから出荷までを午前中に行います。その合間に餌を与え、午後は鶏舎内の掃除など鶏にとって快適な環境を保つ作業に奔走します。

大塚さんの以前の職場は農業法人。実はここに来るまで養鶏の経験はまったくありませんでした。それでもこの世界への転身を決断したのは、本宮烏骨鶏の飼育の根底にあるアニマルウェルフェアの考え方にかねてから共感していたからだと言います。

平飼いだからこそ生まれる濃厚な味わいの卵

アニマルウェルフェアは、家畜がストレスを受けることなく快適な環境下で飼育されると同時に、それによって人も家畜から癒しを得るなど、家畜と人が共存しながら健康的に関係を維持する状態と定義されます。また、それによって家畜の疾病が減ることで、生産性の向上や畜産物の安全性の確保につなげるという考え方でもあります。

「鶏は本来、砂浴びが大好きですし、日向ぼっこも大好きです。でも、採卵のために日本で飼育されている鶏のほとんどはB5からA4の紙一枚ほどの広さしかない金網のケージに入れられ、砂浴びも日向ぼっこもできず、卵だけ産まされて短期間のうちに処分されてしまいます。

平飼いの場合、鶏は1日1kmほどの距離を動き回るとされています。しかしケージ飼いではほとんど動くこともできず、運動不足やストレスから病気を起こしやすくなります。そうなると、抗生物質を混ぜた餌が与えられるようになります。当然、味にも影響を与えますし、人が食べるうえでも安心とは言い切れない卵が産まれることになります。」

アニマルウェルフェアの考え方が広がり、鶏にとって厳しい環境で卵が生産されていることが知られるようになってきたことで、ケージでの飼育から「ケージフリー」、つまり平飼いもしくは放し飼いへとシフトする動きが世界的に広がってきました。EUではケージフリーの割合が2021年時点で55%、アメリカでは2020年時点で26.2%となっています(NPO法人アニマルライツセンターWebサイトより)。一方、国際鶏卵委員会の2019年の調査では、日本のケージフリー率は約5%と、世界に後れを取っている状況です。

そんな中、本宮烏骨鶏は早くから一貫して平飼いの環境で飼育されてきました。その卵は臭みがまったくなく、濃厚な味わいが楽しめます。その理由こそ、平飼いによるストレスのない飼育環境にあると大塚さんは言います。餌にも十分こだわり、遺伝子組み換えの飼料は使わず、玄米や小麦、魚粉などを配合した自然由来の餌だけを与え、鶏を健全な成長へと導いています。

平飼いやアニマルウェルフェアを知っていただく機会を増やしたい

飼育における努力が少しずつ実を結び、「最近では若い人を中心に平飼いの卵だけを求めるお客様が少しずつ増えてきた」と語る大塚さん。組合では本宮烏骨鶏のほか「本宮もみじ」と呼ばれる鶏の卵も生産しており、その産卵数は1日250個ほど。本宮烏骨鶏と合わせて1日約500個の卵が産まれますが、需要の高まりを踏まえ、今後はこの数をさらに増やし、本宮の特産品としての知名度を高めていきたいと語ります。販売価格は本宮烏骨鶏の卵が6個800円、本宮もみじは6個500円。どちらも決して安いとは言えない卵ですが、おめでたい席やみんなが集まるような機会に、またお歳暮など贈答用に買っていく人も多いそうです。

「多くの家庭にとって卵は常にあるもの、常に食べるものだと思います。だからこそ、やはり安全なものを食べていただきたいと思うんです。卵としては高価ですから“どんどん買ってください”とはなかなか言えませんが、その価格の意味が一般的に理解され、“卵とは本来こういうものだ”という意識が消費者のみなさんに広がったらいいなと思っています。そのためにも、平飼いやアニマルウェルフェアの取り組みについてより広く知っていただく機会を作っていきたいと思います。」

処分される雄鶏を買い取り加工品にする取り組みも

組合では今後、卵だけでなく食肉加工品の販売にも取り組む計画を立てています。そこにも、アニマルウェルフェアに基づく発想があります。

「ケージ飼いを行う大きな事業者で卵を産む役目を終えた鶏は食肉加工業者などに引き取られることが多いですが、ここのような小規模な養鶏場の鶏はなかなか引き取り手がつかず、廃鶏が一つの問題にもなっています。また、ひよこには当然雄と雌がいますが、鶏卵業者にとって雄は必要ありませんよね。あまり知られていないことですが、そうした雄は産まれてすぐに処分されていて、その数は年間1億羽に上ると言われています。

そこで今後、一つの取り組みとして、本来は育てない雄鶏をここで育て、卵を産み終えた雌鶏も含めて精肉や加工品として商品化する取り組みを考えています。鶏卵の仕事というものは卵を取って終わりなのではなく、卵を産まない雄や卵を産み終えた雌までしっかり面倒を見る仕事だということが、最近ようやくわかってきました。」

鶏が健康でいられること、また、そのためにできるだけきれいな環境を維持しながら、すべての鶏の一生に責任を持てる仕組みを作り上げること。アニマルウェルフェアの考えに基づく本宮烏骨鶏の取り組みは、おいしい卵だけでなく、命をいただくことの意味やありがたさも、私たちに届けてくれています。


一般社団法人本宮烏骨鶏生産組合
福島県本宮市岩根字苗代田8-1
TEL 0243-24-8553
https://www.mukokkei-onlineshop.com/


〈本宮烏骨鶏の卵が買える店〉

■本宮烏骨鶏生産組合事務所
福島県本宮市岩根字苗代田8-1
TEL 0243-24-8553
https://www.mukokkei-onlineshop.com/

■しらさわ直売所「産直さわちゃん」
福島県本宮市白岩字柳内5-1
TEL 0243-44-4477
https://www.city.motomiya.lg.jp/map/072.html

■愛情館
福島県郡山市朝日二丁目3-35
TEL 024-991-9080
https://www.zennoh.or.jp/fs/store/aizyokan.html

■あぐりあ
福島県郡山市安積町成田1丁目20-1
TEL 024-945-7483
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1007

■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1丁目160
TEL 024-973-6388

■あだたらの里
福島県安達郡大玉村大山新田10-1
TEL 0243-48-2317
https://adatarano-sato.com/

■こらんしょ市 二本松店
福島県二本松市杉田駄子内6-1
TEL 0243-62-4218
https://www.ja-f-mirai.or.jp/life/?id=151

■道の駅安達
〈上り線〉
福島県二本松市下川崎字上平33-1
TEL 0243-61-3100
〈下り線〉
福島県二本松市米沢字下川原田105-2
TEL 0243-24-9200
http://www.michinoeki-adachi.jp/

〈本宮烏骨鶏の卵を使用している店〉

■一二三食堂
福島県本宮市本宮字上町35-3
TEL 0243-33-2373
http://www.123-s.com/

■柏屋食堂
福島県本宮市本宮仲町33
TEL 0243-34-2129
https://www.city.motomiya.lg.jp/site/kanko/kashiwaya.html

■モトバル
福島県本宮市本宮字南町裡26番地の13
TEL 0243-24-7566
http://www.motomiyabar.com/

■ガーデン金丸
福島県本宮市本宮万世145-3
TEL 0243-33-4281
https://www.city.motomiya.lg.jp/site/kanko/ga-denkanamaru.html

■ブランチ
福島県本宮市本宮字南町裡32-3
TEL 0243-33-3855
https://www.instagram.com/buranchi5624/

■菓匠きねや
福島県本宮市本宮字下町45
TEL 0243-34-2341
https://www.okashi-kineya.jp/

■ぬか茂菓子店
福島県本宮市本宮字馬場88-1
TEL 0243-34-1488
https://www.nukamo.com/

■ホテリ・アアルト
福島県耶麻郡北塩原村大字檜原字大府平1073-153
TEL 0241-23-5100
https://hotelliaalto.com/


<動画>ショートムービーをご覧ください。

2023.3.22公開
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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