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#27 生産から卸、小売りまで。親子で目指す、まだどこにもない「ハイブリッド型青果流通」のかたち

COCOココ FARMファーム
音川充輝みつてるさん、和輝かずきさん

2020年3月、郡山で半世紀にわたり野菜や果物の仲卸業を手掛ける音川青果の倉庫の一角に、新しい青果店がオープンしました。名前は「SENDOYA」。市内外各地から仕入れられた、その名の通りフレッシュな野菜たちが並んでいます。

野菜のおいしさやラインナップだけでなく、工夫を凝らしたおしゃれなディスプレイもSENDOYAの魅力の理由の一つ。これまでの青果店にはない店づくりとSNSを活用したPRでファンを増やしています。毎朝開店前からお客様が集まる「行列のできる青果店」です。

そんなSENDOYAのディスプレイの中に、ひときわ鮮やかに赤く輝くフレッシュなトマトを発見しました。パッケージには「COCO FARM」の文字。音川青果の2代目社長である音川充輝さんが次男の和輝さんを誘い2019年にスタートした新しい農園です。

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今回は、ココファームの野菜作りに携わる2人にSENDOYAで店長を務める長男の凌太朗りょうたろうさんも交え、形は違えどそれぞれのスタンスで野菜に関わる親子それぞれの想いを聞かせていただきました。

「自給自卸」の新しいビジネスモデルを目指し就農

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充輝さんは、家業である音川青果で大手スーパー等に野菜や果物を納品する仕事に長く従事。2014年に社長に就任しました。しかし、青果の流通を巡る世の中の流れは当時すでに大きく変わりつつあったと言います。その中で経営を持続させるために決断したのが、農業への参入でした。

「野菜の卸売というのは、農家さんがいなければ商売になりません。ところが農家さんは減り続けていますし、そうなると生産量も減ってくる。さらにその中で価格競争が起きれば、卸の儲けもどんどん減ってしまう。これからは市場に流れてくる作物をただ扱うのではなく、生産者と小売店が関係を構築し、とれたての商品がすぐに消費者に届くような流通に変えていかなければ生き残れないと思っていました。

幸い、長く会社を続けてきたことで自社の販売スキルは確立していましたから、農家さんにお願いするばかりではなく自社でも生産力を持って、1アイテムでも2アイテムでも自信を持てる作物を自ら継続的に供給できれば、会社もより安定するのではないかと考えました。」

卸の立場からニーズを把握し、農家に対して生産品目の指導なども行っていたという充輝さん。この知識を活かし、自給自足ならぬ「自給自卸」の新しいビジネスモデルを目指して、市内東部の土地を借りて農業への取り組みを始めます。その作業に充輝さんが誘ったのが、次男の和輝さんでした。

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一時は美容師を目指していたという和輝さん。農業は完全に未知の世界でしたが、「自由な感じがするし楽しいかもしれないと、軽い気持ちで」お父様の誘いを受け入れます。しかし、彼を待っていたのは想像をはるかに超える重労働でした。

「手つかずの薮だった土地を切り拓いたり、ある時は水害で土地に水が上がってしまい、泥だらけになりながらスポンジでひたすら水を吸い取ったり。これのどこが農業につながるのかって感じで…。ようやくハウスが建ったら、今度は何から手をつければいいのかまったくわからない。正直ただただ辛かったですね。」

ココファームの名は、新しい取り組みが「ここから始まる」ことをイメージしてつけた名前。充輝さんと和輝さんによる、まさにゼロベースからの野菜作りが始まりました。

出荷してすぐ店に並ぶ新鮮な野菜には敵わない

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これまでに、ラディッシュやキュウリ、ズッキーニ、サツマイモなどの栽培にチャレンジした2人。現在はトマトをメインに生産しています。その味は濃く、豊かな甘みが特徴です。

「市場に流通しているトマトのほとんどは、お店に並ぶタイミングから逆算して若干青いうちに収穫されます。ただし、それだと収穫してから消費者の手に届くまでに味が落ちてしまう。やはり出荷してすぐお店に並ぶ新鮮なものには敵いません。

その点、うちではハウスで採れたばかりの商品を自社の流通を使ってその日のうちにお店に卸していますから、味には自信があります。」

一方の和輝さんも、2年の経験を重ねた今、少しずつ生産者としての自らの成長を感じて始めているようです。

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「葉っぱの色づきを見て元気に育っているかがわかるようになったり、元気がない時の原因を自分なりに考えて対策を取ることができるようになったりして、ようやく農業が楽しくなってきました。いいトマトが実った時はもちろんうれしいですが、一番うれしいのは、“ココファームのトマトがおいしかった”とSNSの投稿やDMで言っていただける時ですね。」

仕事でケンカをしても「仕事を離れたら最強の親子」

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野菜作りを進める一方、充輝さんは、自ら生産した野菜や卸で仕入れた商品を販売する小売店の開店も計画します。店長として白羽の矢を立てたのは、長男の凌太朗さんでした。音川青果の社員として卸に関わるかたわら、インターネットで野菜を販売する通販サイトを自ら立ち上げ運営していたという凌太朗さん。いずれは自分で店を持ちたい、店を出すなら名前は「SENDOYA」と決めていた、という凌太朗さんにとって、充輝さんの提案は願ってもないもの。「チャンスだと思った」と振り返ります。

「郡山にはない雰囲気の店にしないといけないと思いました。修学旅行でアメリカのスーパーに行った時、大きなカゴのような入れ物にグレープフルーツがディスプレイされているのを見たことがあって、そんな雰囲気にしようかと思ったり。それ以外にもいろんなところからアイディアを取り入れています。」

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一方ではSNSを活用したブランディングにも注力。Instagramのフォロワーはすでに8,000人以上を数えます(2021年2月現在)。コロナが収まったら、Instagramを通じてつながった市内外、県内外の生産者を訪ね、直接契約でいい野菜だけを仕入れていきたいと夢を語ります。そんな凌太朗さんを見て、充輝さんはこう語ります。

「正直、ここまでやれるとは思っていませんでした。お客さんが並ぶのも、3日も続けばいいだろうと思っていましたから。長いこと量販店を取引先にして商売をして積み上げた自分の概念とはまったく違うやり方でうまくいっていますから、これはもう俺にはどうしようもねえなと思ってます(笑)。最近はもう、俺はSENDOYAには出入り禁止なんです。自分の感覚でつい余計なこと言っちゃうから(笑)。」

充輝さんがそう言った後、凌太朗さんがこう付け加えてくれました。

「仕事ではケンカばっかだけど、仕事を離れたらうちら最強だよね。」

立体的な事業で仕事と雇用を守っていきたい

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「以前は青果の仕事で食っていくのは自分の時代で終わりにしようと思っていた」という充輝さん。しかし今、頼れる2人の後継者がそれぞれの形で青果に関わり、着実に次の時代へバトンが受け継がれようとしています。父親として、その姿には大きな喜びを感じているようです。

「卸をやって、小売をやって、生産をやる。そうすれば事業を立体的に大きくできます。卸からこういう形で事業を展開する例は全国的に見てもおそらくないと思うので、最初は“大丈夫なのか”と言われたこともありました。しかし、息子たちがそれぞれに、これまでの人生の経験からヒントをつかんで、今こうして働いてくれていることが力になっていますし、本当にありがたいです。

前途多難な業界だとは思いますが、これからも息子たちとこのスタイルで野菜に関わり、どこかに属するのではなく自社の力で仕事と雇用を守っていきたい。それが今の最も大きな願いです。」

生産から卸、そして小売りまで。音川さん親子の連携によるハイブリッドな農業のかたち。時代の流れと共に青果の流通が置かれる状況が変わる中、もしかしたらこのスタイルが、これからの時代の新たなスタンダードとなっていくのかもしれません。

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COCO FARM
https://www.cocofarm-oto.com/
Instagram @cocofarm_official

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<COCO FARMのトマトが買える場所>

■SENDOYA
福島県郡山市富久山町久保田太郎殿前2
https://www.instagram.com/sendoya_official/

取材日 2021.1.21
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)