見出し画像

「今こそ地元のものを。わざわざ地球の裏から買うんじゃなくてね」。2022年に100回を迎える「あぐり市」

かつては多くの市民が買い物に訪れ賑わった郡山中町の「なかまち夢通り」。市街地の空洞化などの影響でかつてのような賑わいは見られなくなりましたが、週末にはさまざまなイベントが開催されるなど、賑わいの創出に向けた取り組みが続いています。

そんなイベントの一つとして開催されているのが「あぐり市」。今日の郡山の「農」と「食」の関わり合いに大きな役割を果たしてきたイベントで、7月から12月までの毎月一回、うすい百貨店前のスペースにたくさんの農産物が並べられます。とりわけ8月と12月には、旬の野菜を使って特別なディスプレイが施された「作品発表会」が開催され、華やかに通りを彩ります。

長年にわたり中心メンバーとしてこのイベントを運営してきた伊藤和さんと鈴木農場の鈴木光一さんにお話を伺いました。

先駆的かつ独創的な取り組みで郡山の農業を紹介

(伊藤和さん)

第一回の「あぐり市」が開催されたのは2004年のこと。1975年の創刊から42年続いたタウン誌『街こおりやま』の編集長だった伊藤和さんの発案がきっかけでした。

「郡山という街のいろんな魅力をみなさんに教えたくて、その中の一つが農業のことだったわけ。それで<くわねがい>という会を始めて、郡山の飲食店をまわって、どこの食材を使ってるかを聞いたり、勉強会と称して郡山の土地のことを勉強したりしました。その流れで光一君ら農業青年会議所の人達に話にも来てもらって、“君らの望みは何か”と聞いてみたんです。」(伊藤さん)

一方、勉強会に呼ばれた鈴木光一さんも、郡山に新しい産品を生み出そうと「郡山ブランド野菜協議会」を立ち上げ、まさにその活動を大きく広げようと歩みを始めたタイミングでした。

「和さんに“望みは?”と聞かれたので、郡山の農業を知っていただく機会を作って欲しいという話をしました。心を込めて作っているものなので、一つの作品のような感じでみなさんに見てもらい、そこから今の旬の野菜は何かを知ってもらうような機会を作りたかったんです。それが、あぐり市につながっていきました。」(鈴木さん)

(鈴木光一さん)

第一回のあぐり市は、安積国造神社の境内と神社会館を使って開催。普段なかなか見ることのない野菜の花の展示をするなど、初回から目にも楽しいイベントが開催されました。その後も、野菜だけでクリスマスツリーを作ったり、4俵ものコメで1個の大きなおにぎりを作ったり、野菜神輿を作って郡山駅前を練り歩いたりと、先駆的かつ独創的な取り組みを積み重ねてきました。

「まずは自分達が楽しもうと。自分たちが楽しまないと誰も楽しめないから。」

と伊藤さんは振り返ります。駅前大通り、大町の商店街やアーケート内など、少しずつ場所を変えながら開催は続き、現在の場所で開催されるようになったのは2017年頃。当初は年1~2回の開催でしたが、現在は年6回開催され、今年の12月で100回の節目を迎えます。

新しい生産者の受け皿としての役割も

あぐり市には、一般の消費者に野菜の魅力を知ってもらうことだけではなく、飲食店にも地元食材の魅力を伝え、店で使ってもらう目的もありました。伊藤さんは、市内の飲食店やホテルのシェフにも積極的に声をかけ、足を運んでもらいました。

「地産地消とかスローフードとか、そういう言葉がやっと聞かれ始まった頃で、郡山ではここからそうした考えが飲食店に広まった部分はあると思います。見てもらって初めてわかってもらえた。あぐり市があったからこそだと思います。」(鈴木さん)

現在あぐり市に参加する生産者は約20人。長く関わる生産者はもちろん、新規就農者の受け皿としても機能させたいと鈴木さんは言います。

「これから農業で生きていこうという人にとって、こういう流れで野菜は売れていくんだ、知られていくんだということを知るのはとても大切なことです。そういう役割もこのイベントは果たしていると思います。」(鈴木さん)

この日参加していた生産者の一人、佐藤佳さんも、このイベントで生産者としての学びを深めた一人です。鈴木さんのもとで研修後、現在は「御前人参」や玉ねぎの「万吉どん」、サツマイモの「めんげ芋」といった郡山ブランド野菜を栽培しています。

「あぐり市に参加して5~6年になります。お客さんの顔を見ながら販売して直接声を聞けるのが一番の魅力ですね。直売所だとそれができませんから。常連の方が“こないだあれがおいしかったよ”と言ってまた買っていってくれたり、おいしい食べ方を教えたり、逆に新しい食べ方を教えてもらったりもします。単に売るだけではなく、勉強の場としてもこの場所を与えてもらっている感覚です。」(佐藤さん)

(佐藤佳さん)

郡山の食に誇りを持ち、みんなで盛り上げたい

あぐり市は今のすべての活動のベースの一つであるという鈴木さん。年数回の開催のうち夏と冬、ほぼ年2回のペースで企画してきた「作品」としての野菜の展示では、80種類から多い時には100種類にも及ぶ色とりどりの季節の野菜が会場の一角を飾ります。2021年の展示からは息子の智哉さんがディスプレイを担当するようになりました。

親子でディスプレイをする鈴木光一さん(左)と智哉さん

「野菜が畑で実際にどうなっているのかを意識してディスプレイしています。下のほうに根菜を置いて、葉物は上にと、自然に実っているような流れで配置します。できれば袋に入れずに見せたいんですけど、カブの葉っぱなどは10分も置いておくとしなってしまう。午後3時まで見せるものなので、長くきれいに見せることも意識しています。僕にはまだ父のように積み上げてきたものもありませんから、自分なりの見せ方、父にはない取り組み方で、回を重ねることによってうまくなっていきたいです。」(智哉さん)

一方、父の光一さんは、これからもあぐり市を通してさまざまな食の結びつきを生み出したいと言います。

「郡山から新しい食文化を作ったり、郡山でいろんな産業を手がける人達とコラボしたりしたいですね。それを畑の中ではなく街の真ん中でやることに意味があるんです。」

和さんもこう続けます。

「食は命ですから。郡山という街を誇りに思って、ここで野菜を作って生活している人がいることを知って、気づいて、みんなで楽しみながら食や農産物を盛り上げていきましょうという感じですかね。

“自分が住んでる場所の四里四方のものを食ってると病気にならない”って昔から言います。特にコロナもありましたから、今こそやっぱり原点に戻って地元のものを食べましょうと言いたい。地球の裏から来るやつをわざわざ買うんじゃなくてね。」

※写真撮影時のみマスクを外していただきました。通常の市場運営は新型コロナウイルス感染対策を施したうえで開催されています。


あぐり市

■場所
なかまち夢通り(郡山市中町・うすい百貨店前)

■2022年の開催日時(予定)
7/17(日)、7/31(日)、8/7(日)、8/21(日)、9/18(日)、10/16(日)、11/6(日)、11/20(日)、12/4(日)【100回記念】、12/25(日)
午前10時~午後4時

※8/7(日)は夏野菜の「作品発表会」、12/4(日)は冬野菜の「作品発表会」

2022.7.11 公開
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所