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#53 阿武隈高地の豊かな土で育む米と野菜。全国に発信できるブランドをこの地から生み出したい

Hiro Farm
鈴木 博さん

郡山市の中心部から北東へ7~8km。阿武隈高地の山裾に広がる西田町は、農業が盛んな緑豊かな地域です。郡山を代表する観光地の一つであり、郷土玩具として全国的に有名な張り子人形の工房が集まる民芸の里、「高柴デコ屋敷」はこの西田町にあります。
 
その西田町で米や多品目の野菜を生産する鈴木博さん。西田町の農家に生まれ育ちましたが、農業を始めたのは40歳を過ぎてからでした。その背景にあったのは、故郷のなりわいをつなぎたいという思いです。
 
鈴木さんの畑を訪ね、その想いや日々の取り組み、生産者としての夢をうかがいました。

農業で地元を盛り上げられれば

鈴木さんが農業を始めたのは2020年。それ以前は飲食業やサービス業の世界に身を置き、東京や郡山の飲食店、裏磐梯のホテルなどで経験を重ねました。一方、農家が繁忙期となる春や秋には実家の手伝いで田んぼに出ることも。そんな生活を毎年続けるなか、故郷のある変化に気づき始めたといいます。

「自分の父親も含め地域全体に高齢化が進み、農業で頑張っている人が少なくなってきていることを、年を追うごとに感じるようになっていました。ここは農業で生活を支えてきた地域。自分が農業をやることで、少しでも地域を盛り上げられないかと考えるようになりました。」
 
折りしも、新型コロナウイルスの感染が拡大し飲食業やサービス業が大きな苦境に立たされていた時期。仕事が休みになる日も多かったといいます。これからの人生を考えるなか、農業に心が動くことは、西田町で育った鈴木さんにとっては自然なことでした。
 
「父に相談すると、話を聞いた地域の人たちが“うちの土地を使わないか”と次々に声をかけてくれました。みんな以前からの顔見知り。助け合い手を貸しあえる地元ならではの環境がここにはあったんです。」

高い食味値を誇る米と多品目の野菜を生産

鈴木さんが手がける農産物は多岐にわたりますが、その大きな柱であり、また自信を持って生産に取り組んでいるのが、米です。

米には、アミロース・タンパク質・水分・脂肪酸の成分量を測定し、そのおいしさを数値化した「食味値(しょくみち)」と呼ばれる基準があります。全国の平均は70%台といわれますが、鈴木さんの米は毎年85%前後の高い数値を誇ります。

「うちの米に限らず、西田でとれる米は本当においしいですよ。山土で養分が非常に多く、良いコメが自然に育つ土地なんです。初めて食べて驚いて、次の年にリピートで買ってくださる方が多いですね。」

鈴木さんが作っているのは、農薬の使用回数と化学肥料の窒素成分量を通常の栽培方法に比べ50%以下に抑えた「特別栽培米」。おいしさだけでなく作り手の「想い」も詰まった米を提供しています。

一方、野菜は、春先のホウレンソウや人参、夏場のトウモロコシとトマト、秋から冬にかけての白菜やキャベツ、サツマイモなど、10品目以上の栽培に取り組んでいます。

「1年目は年間100種類近く作りました。そのなかで売り物になったのは半分ぐらい。2年目、3年目と経験を重ねるうちに、この季節にはこれが合っているな、これは西田町で育てるのが難しいなと、おいしく作れるものが絞れてきました。それでもまだまだ品目は多いですね。よく先輩に“いろいろ作り過ぎだ”と言われるんですが、みんなと同じようにやってもおもしろくない。いろんなことに挑戦して、自分に合った作物、自分に合った農業をいつも探しています。」

それらの野菜のなかには、郡山の風土に合った品種を厳選し、統一された規格に基づいて生産される野菜、「郡山ブランド野菜」も含まれます。
 
郡山ブランド野菜の取り組みは、これからの郡山の農業を代表するような野菜を生み出そうという志のもと、地元の若手生産者が中心となり2003年にスタートしました。これまでに13種類の野菜が登録されています。そのうち鈴木さんは、トウモロコシの「とうみぎ丸」、サツマイモの「めんげ芋」、キャベツの「冬甘菜」、ニンジンの「御前人参」、カブの「あこや姫」などを生産しています。取材時は、とうみぎ丸が最後の出荷を迎えるタイミング。「生でも食べられるほど高い糖度がとうみぎ丸の魅力です」と、自らとれたてのとうみぎ丸をかじってみせてくれました。

郡山だから、西田町だから生み出せるものを

これらの作物に加え、鈴木さんがこれから力を入れて取り組もうとしているのが、青豆の生産です。青豆は大豆の一種で、郡山市周辺ではお正月の料理に欠かせない作物の一つ。西田町ではここ30年ほど盛んに生産されてきましたが、近年は収量が減っているといいます。
 
「西田町ならではのブランドを作りたいと考えたときにまず浮かんだのが青豆でした。郡山では西田町以外ではあまり作られていませんし、これまでの栽培の伝統もあります。それを継承していきたいです。また、加工品としての可能性を見出せれば、将来的には地域の雇用創出にもつながるのではないかと思っています。」

鈴木さんの青豆はいま、地元の豆腐店が作る豆腐の材料として使われたり、豆菓子に使われたりしているほか、西田町で作られた小麦も含め純西田町産の原料で作られた醤油も開発されるなど、さまざま広がりを見せています。
 
「ずいぶん失敗もしてきましたが、そのなかで勉強して、毎年少しずつは成長できているかなと思っています。まだまだ経験を重ねて、郡山ならではのもの、西田町だから生み出せるものを届けていきたい。その一つとして、青豆には大きな可能性があると思っています。」
 
これまでは市内の直売所をメインに販売してきましたが、これからはECサイトも活用してより多くの人に米や野菜を届けたいという鈴木さん。生産地としての郡山の魅力を聞くと、「どんな作物もおいしく育つ場所」と大きな誇りを口にしてくれました。その誇りを胸に新たなブランド作りを目指す鈴木さんの挑戦は、まだまだ始まったばかりです。


Hiro Farm
郡山市西田町
https://poke-m.com/producers/849952


<鈴木さんの米・野菜が買える店>
※入荷状況によりご購入いただけない場合があります

■愛情館
福島県郡山市朝日二丁目3-35
TEL 024-991-9080
https://www.zennoh.or.jp/fs/store/aizyokan.html

 ■あぐりあ
福島県郡山市安積町成田1丁目20-1
TEL 024-945-7483
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1007

 ■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1丁目160
TEL 024-973-6388

 ■ヨークベニマル
https://yorkbenimaru.com/store/
※店舗により取り扱いがない場合があります

 
<鈴木さんの野菜が食べられる店>
※入荷状況により提供がない場合があります

 ■東北六県食堂
福島県郡山市駅前2丁目11−1
TEL 024-983-9996
https://www.instagram.com/tohoku6ken_shyokudou/

 ■TO-FU Cafe おおはたや
福島県田村郡三春町西方字石畑253番地
TEL 0247-62-1113
http://www.oohataya.com/


取材日:2024.9.28
 
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)