#8 「やるつもりがなかった」農業。3年でブランド化から店舗運営へ。広がり続ける女性養蜂家の夢
Oriy’s HONEY
代表 折笠ルミ子さん
農業は、他の第一次産業に比べて従事者に占める女性の割合が高いと言われています。また、近年盛んな農産物の6次産業化においても、女性ならではのセンスと感性を味やパッケージに活かした商品が多く生み出されるなど、農業における女性活躍の場は格段に広がっています。
そんな中、福島県農林水産部では、県内で農業に従事する女性たちが相互に交流し経験や情報を共有することで県の農産物の魅力を高めていこうと、2016年7月に「ふくしま農業女子ネットワーク」を設立。商品開発やPR、経営に至るまで、さまざまな側面から農業で活躍する女性をサポートしています。
郡山市東部、宇津峰の山懐で養蜂を営み、「Oriy's HONEY」のブランド名ではちみつ商品を展開する折笠ルミ子さんも、そのコアメンバーの一人です。「農業なんてやるつもりなかった」ところからスタートしてわずか3年。ふくしま農業女子ネットワークとの関わりの中で彼女の人生は大きく変わり、自らお店を開くまでになりました。その想いの変化と、ルミ子さんの持つバイタリティーの秘密について、お話をうかがいました。
「友達ってどうやって作るんだっけ…」
ルミ子さんは伊達市保原町の出身。バスガイドとして7年務めた後、農家の長男であるご主人と結婚し、郡山へと移り住みました。
しかし当時のルミ子さんは、農業の世界で精力的に活躍する現在の姿からは想像もつかない、言わば引きこもった日々を送っていたと言います。
「郡山には主人の家族以外に誰も知り合いがいなかったんです。少し外に出て話す機会があっても、“言葉のニュアンスが郡山と違うよね”って言われることもあって、“私って友達がいない。友達ってどうやって作るんだっけ…”と思っていました。そうするうちにだんだん話す人もいなくなって…。
でも、だからと言って農業をやろうという気にもならず、ただ主人が帰ってくるのを待っているだけのような毎日を過ごしていました。ちょっと鬱みたいな感じだったかもしれないですね。」
引退を口にした父に「私がやってもいいですか?」
意識が変わったのは2016年6月。義理のお父様である彦一さんからの思いがけない言葉からだったと言います。
「突然、“そろそろ農業を全部継がせようかな”って言い出したんです。震災があったり家族が病気になったりしたことがあったので、少し弱気になっていたのかもしれないですね。」
もともと折笠家は、この地で17代続く歴史ある養蚕農家。近年はキュウリやコメを中心に、“作っていないものはない”というほど多種多様な作物を作っていました。しかし、養蜂を始めたのは今からわずか6年前。震災の影響で養蜂をやめた親類の後を継ぐ形でスタートし、以後、折笠家の屋号である「叶」の名を掲げ、叶養蜂場として良質なはちみつを作ってきました。
そんな彦一さんの突然の言葉を聞き、ルミ子さんは思わず「私がやってもいいですか?」と手を挙げたと言います。もしかしたらその裏には、自分を変えたいというルミ子さんの想いがあったのかもしれません。
以来、寡黙な彦一さんとルミ子さんによる、養蜂の道をつなぐ作業が始まりました。言葉で教わることはほとんどなく、見て感じ、反復で覚えるスタイル。手探り状態の中、ルミ子さんの養蜂はスタートしました。
転機となったふくしま農業女子ネットワークとの出会い
彦一さんから養蜂を学ぶ一方、ルミ子さんはインターネットで農業に関するさまざまな情報を集め始めます。その中で知ったのが、ふくしま農業女子ネットワークの存在です。
「友達と呼べる仲間がいなかったので、女性が農業を始めるにあたって何を、どこで勉強すればいいのか、まったくわからなかったんです。その点で、ふくしま農業女子ネットワークの存在は大きかったですね。
私が農業女子ネットワークの仲間になったのは、生産者が自らお店に立ち6次化商品を販売する<FUKUSHIMART>というお店が三春にオープンする時期でした。お店にはネットワークのメンバーも関わっていて、そこではちみつを販売させてもらうことになったのが最初の関わりです。」
しかし、期待を込めてお店に並べたそのはちみつは、ほとんど売れませんでした。当初FUKUSHIMARTで販売したルミ子さんのはちみつは、昔ながらの瓶に入ったはちみつだったのです。
ブランディングの重要性を知り“Oriy’s HONEY”を立ち上げ
ただ作るだけ、ただ売るだけでは買ってもらえない。商品の見せ方を含めた“ブランディング”の大切さを知ったルミ子さんは、FUKUSHIMARTのプロデューサー廣田拓也さんや仲間たちの力を借りながら、はちみつのブランド化に乗り出し、ある商品を開発します。
「震災後、福島のフルーツやドライフルーツが風評被害で売れなくなりましたよね。一方で、はちみつには殺菌・抗菌作用があるので、はちみつに県産のドライフルーツを入れて売れば、風評を払しょくする商品にできるんじゃないか、という提案をいただいたんです。
そこで、ネットワークの仲間が私につけてくれた“オーリー”というニックネームから“Oriy’s HONEY(オーリーズハニー)”というブランド名をつけて、ラベルも瓶もオシャレなものに変えて、ドライフルーツ入りのはちみつを2017年の12月から販売しました。そしたら大ヒットしたんです。廣田さんは最初、“はちみつはどこにでもあるから、そんなに売れないだろう”と言っていたんですけど、彼もびっくりするぐらいのヒット商品になりました。」
その後、ドライフルーツが入っていない通常のはちみつはもちろん、ミツバチが蜜を集めてくる花ごとにラベルの色を変えて販売したり、パウンドケーキや石鹸などはちみつ以外のコラボ商品も展開。オーリーズハニーは一躍人気ブランドとなりました。
ふくしま農業女子ネットワークと出会いFUKUSHIMARTに立ってからわずか半年で大きく変わった日常。その出会いをルミ子さんはこう振り返り、感謝を口にします。
「FUKUSHIMARTの仲間は、“6次化ってこういうことだよ”、“こういうふうにしたらきっと売れるよ”など、いろんなことを教えてくれました。ラベル一つを作るにしても瓶を選ぶにしても、いろんなアイディアをくださったんです。
みなさんそれぞれ違う作物で活躍している方々ですけど、同じ農業を志す仲間。家庭のことなどお仕事以外の話もできるようになりましたし、本当に人生が変わりましたね。」
「私がやらなくちゃ」の想いでYell Gardenを開店
三春でのFUKUSHIMARTの営業は2018年5月で終了。生産者たちがそれぞれのフィールドに戻っていく中、ルミ子さんは、農業女子の仲間が、そして仲間の6次化商品が集まる場所がなくなってしまうことに危機感を抱いたと言います。
その中で決断したのが、農業女子たちの商品が集まる場所を自ら作ることでした。FUKUSHIMART終了後すぐに行動を起こし、2018年10月から、白河に「Yell Garden」という名のお店をオープン。約40人のネットワークのメンバーやFUKUSHIMARTのメンバー、地元生産者の6次化商品や野菜を中心に扱い、ルミ子さんも自らお店に立ちました。
「もう、“私がやらなくちゃいけない”という気持ちだけでしたね。白河にお店を出したのは、たまたまいい場所が見つかったこともありますけど、白河に農業女子ネットワークのメンバーがいなかったことも大きな理由の一つ。私、ネットワークのメンバーをもっともっと増やしたいんです。」
「もっと早く農業をやっていればよかった」
エールガーデンは2019年7月で店舗契約が満了し、現在は郡山市内で新たにエールガーデンのオープンを目指しているルミ子さん。オーリーズハニーの商品はもちろん、もともと彦一さんが叶養蜂場として販売していた商品も継続して販売を続けており、売り上げは好調です。一箱あたり2万匹以上のミツバチが住むという巣箱は、年々その数が増えています。
「手をかけて作った商品が売れるのを、父もうれしく思ってくれているようです。でも、お店のことはすごく心配してくれているみたいですね。
主人はサラリーマンですが、“やりたいことなら俺は応援する”と言って、販売に一緒に来てくれたり、イベントに出店する時にテント立てるのを手伝ったりしてくれています。郡山にエールガーデンをオープンし、主人が引退したら、お店を一緒にやりたいですね。」
ミツバチは、4月は菜の花や桜、5月は藤やヘアリーベッチ、6月はアカシアやクリ、7月はひまわりと、それぞれの季節を彩る花から蜜を集め、それによって毎年色や風味の異なるはちみつが生まれます。
ルミ子さんのご自宅周辺は後継者不足などの影響で休耕地が増えていますが、いずれはその休耕地を利用してお花畑を作り、ミツバチがいろいろな蜜を集められるようにしたい。そしてそのお花畑を、たくさんの人たちが観に来てくれるような魅力ある場所にしたい――。そんな夢も、ルミ子さんは語ってくれました。
「やるつもりがなかった」農業に関わって3年。彼女は最後に、大きく動いたその日々を振り返って、こう話してくれました。
「思うんです。もっと早く農業をやっていればよかったって。父には本当に感謝しています。」
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Oriy’s HONEY
福島県郡山市田村町上道渡字曲渕75
Tel 080-5731-0832
E-mail kanouyouhou@yahoo.co.jp
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<Oriy’s HONEYのはちみつが買える場所>
■たなつもの屋 and FUKUSHIMART
福島県福島市上町5-6 上町テラス1F
Tel 024-597-6500
facebook
■ビームスジャパン
東京都新宿区新宿3-32-6
Tel 03-5368-7300
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■道の駅 伊達の郷 りょうぜん(予定)
福島県伊達市霊山町下小国字桜町3-1
Tel 024-573-4880
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