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顔を合わせるからこそ伝わるおいしさ。46年の歴史を誇る老舗朝市「郡山市おはよう市場」

郡山の中心部、開成山公園に隣接する総合体育館西側駐車場。毎週日曜の朝5時前になると、そこには何台もの軽トラックやワゴンが集まり、駐車場の開門を待っています。車に積まれているのは前日や当日の早朝に収穫されたばかりの鮮度抜群の野菜や果物です。

開門を待っていたのは市内各地で農業を営む生産者のみなさん。ここで日曜早朝に開催される「おはよう市場」の出店者のみなさんです。

最盛期には約80の生産者が出店

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おはよう市場が初めて開催されたのは1975年5月のこと。生産者と消費者の交流を図る朝市として市内の生産者の有志が集まりスタートしました。当時の会場は市内麓山にあった旧郡山市民会館の敷地内。1989年から現在の体育館西側駐車場で開催されています。今年(2021年)で46年目を数える、市内の農業関連イベントの中でも特に長い歴史を誇る朝市です。

始めは13名の生産者で始まったおはよう市場。生産者自らが忙しい作業の合間を縫って新鮮な野菜や果物を安く届けてくれることで評判を呼び、やがて多くのお客様が訪れるようになります。また、それと同時に参加する生産者も回を重ねるごとに増えていきました。最盛期にはその数約80。あまりに大きな組織となり、やむなく入会に制限を設けたこともあったそうです。

40年ほど前から今日まで出店を続け2004年から2007年まで14代目の会長を務めた三穂田町のなめこ農家、古川繁隆さんはこう当時を振り返ります。

「当時は駐車場の中に農家の車がひしめき合って大変だったんだ。お客さんも、ここは本当に郡山かっていうほど来て、すごかったない。」

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(古川繁隆さん)

100台分以上ある駐車スペースにお客様の車が収まりきらず、敷地の外まで駐車待ちの列が伸びることも珍しくなかったとか。「今から思うと夢のような景色だった」と古川さんは言います。

「出店者は減ったけど、和気あいあいだない」

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しかしその後、時代の流れと共に出店する生産者の数は徐々に減り始めます。古川さんが会長を務めていた2005年、設立30周年当時の会員数は55名。その後もなかなか減少に歯止めはかかりませんでした。ご両親の代から出店を続けている現会長の五十嵐信広さんは、

「後継者がいないことで農家をやめてしまった人が多かったこと、また後継者がいたとしても“おはよう市場は親世代のもの”というイメージを持っている人が多く、代替わりと同時に抜けてしまう農家さんは少なくはありませんでした。」

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(五十嵐信広さん)

さらに2011年、その流れに原発事故が追い打ちをかけました。現在、会員数は24名(2021年9月現在)。最も多い時期から3分の1ほどに減ってしまいました。残った会員の中で後継者がいるのはわずか数名。現在出店しているみなさんの高齢化も進む中、どう朝市を継続していくのか。五十嵐会長や会員のみなさんは頭を悩ませています。

しかし、ここに集う生産者のみなさんは一様に明るく陽気。出店者同士で声を掛け合いながら朝市を盛り上げています。古川さんもそのつながりに誇りを持っているようです。

「昔は隣同士でお客さんを取り合ったりして大変なこともあったけど、今は出店者が減ったぶん、お客さんの取り合いもなくなった。みんなそれぞれの状況がわかっているんで、お互いに作ったものを交換したりして助け合ってもいる。ひとことで言えば、和気あいあいだない。」

“なんぼ売らねっかなんね”では続かなかった

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5時にスタートする朝市は、開始と同時に多くのお客様で賑わいます。お目当ての野菜や果物に狙いを定めて訪れるお客様もいれば、朝の散歩を兼ねてやってきてはその時期その時期の旬の作物を買って帰るお客様もいます。中には生産者さんとの他愛のない会話を楽しみに足を運ぶ方もいるようです。古川さんも、おはよう市場の楽しみの一つは「会話」だと言います。

「もちろん売りに来てはいるんだけど、半分はお客さんの顔を見て販売できるのが楽しくて来てるんです。お客さんは、いいものを作れば“んまがった”と言ってくれるし、ダメなところはダメだと言ってくれる。俺たちが気づかない作物の良さも悪さも遠慮なく教えてれる。やっぱり作ってるだけでは気がつかないことってあるんですよね。

逆に俺らからは、お客さんに対して“こうやって食べればおいしいよ”とか、農家ならではの楽しみ方を伝えることもできます。“なんぼ売らねっかなんね”という気持ちだけだったら40年も続かなかったんじゃねえかなあ。」

トウモロコシを一本、手に持って歩いていると、見知らぬおばあちゃんから「そのトウモロコシ、どこで買ったんだい?」と声をかけられました。生産者とお客様の距離だけでなくお客様同士の距離も自然と縮めてくれるような雰囲気が、朝市の中には漂っています。

「これも持ってきな!」とおまけをもらえることも

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スタートから1時間ほど経ち街が朝の営みを始める頃になると、駐車場にはお子さん連れのお客様が少しずつ増え始め、朝市はスタート時とは違った賑わいを見せ始めます。犬の散歩を兼ねて訪れる方も少なくありません。常連さんもふらりと訪れたお客様も分け隔てなく、やさしく迎える農家のお父さん、お母さんたち。運が良ければ「これも持ってきな!」とおまけをいただくこともあります。

そして、山のように並べられていた野菜や果物、お惣菜、生ジュース、生花などのほとんどは、朝市終了の7時を待たずにほとんどが完売。みなさんはそれぞれに店をしまい、またいつもの畑や田んぼへと帰っていきます。駐車場にはいつもの朝の静けさが戻りました。

顔を合わせるからこそわかる食の豊かさを実感できる「おはよう市場」。アクセスに優れた街の中心部で手軽に安く新鮮な作物が手に入る貴重な場として、これからも長く続いてほしい朝市です。

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※写真撮影時のみマスクを外していただきました。通常の市場運営は新型コロナウイルス感染症対策を施したうえで開催されています。

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郡山市おはよう市場

■場所
宝来屋 郡山総合体育館 西側駐車場(福島県郡山市開成1-2)

■2021年度 開催日時
4月~9月の毎週日曜日/午前5時~7時
10月~12月の毎週日曜日/午前5時30分~7時
1月~3月の第2・4日曜日/午前6時~7時30分

※出店者の取扱い品がなくなり次第、終了します。
※8/11(水)「花市」開催
※11/21(日)は福島駅伝のためお休み
※6/13(日)、7/11(日)、9/12(日)は「消費者感謝デー」。お買い上げの方にスペシャルプレゼント!

2021.10.4 公開
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所


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