#28 親子の想いが実った夢のブルーベリー園。届けたい「生活の延長線上にある癒し」
ベリーズパーク郡山
城 清里仲さん
2021年6月、郡山に新たなブルーベリー園が開園しました。市の中心部から北西へ向かい東北自動車道を越えた田園地帯の一角に、真新しいネットが張られたブルーベリー畑が広がっています。地面に直接木を植える「地植え」ではなくポットで育てられたブルーベリーの木が整然と並ぶ園内。東日本を中心に国内で広く栽培されるブルーベリーですが、この栽培方法は東北ではまだ3例目、福島県内では初の試みだそうです。
このブルーベリー園「ベリーズパーク郡山」を切り盛りする城清里仲さんは、プライベートでは3児の母。ここを始めるまでは農業経験ゼロでしたが、豊かな環境で3人のお子さんを育てたい、そしてその中でゼロから作物を作り上げる親の背中を見せてあげたいという想いから、このチャレンジをスタートしたといいます。
しかし、そんな城さん自身も子供たちに背中を押され、その力をモチベーションに変えることでこのブルーベリー園をオープンさせました。親子の力で夢を切り拓いた「ベリーズパーク郡山」。そのオープンまでの道のりと、これからますます膨らむ城さんの夢のお話です。
ブルーベリーがそれまでの苦しみを溶かしてくれた
大学入学を機に郡山から上京し、卒業後は都内の病院で助産師として働いていた城さん。結婚後、ご主人の仕事の都合で韓国への引っ越しを決めたその矢先、思いもよらない病に見舞われます。卵巣のガンでした。手術をし、同じ病気を経験した仲間から驚かれるほどの強い抗がん剤治療を経験して、一時は自力で起き上がれないほど体力が落ちてしまったといいます。
「もう子供を授かるのは無理だろうな。」
そんなふうに諦めていたある日、妊娠が判明しました。
「こんな体の私のところに子供がやって来てくれた。本当に奇跡だと思いましたし、同時に子供の命に対して大きな責任も感じました。でも、自分のこの頼りない体でどうすればその責任を全うしていけるのか。今度は大きな不安と闘うようになりました。」
その後2人目のお子さんが誕生し、少しずつ日常を取り戻したものの、病後の万全とはいえない体に加えて子育ての悩みやプレッシャーにも苛まれる日々。「なぜ私ばかりが」と思うことも少なくなかったと振り返ります。
そんな想いを抱えたまま2015年に家族と共に郡山に戻った城さん。日々の生活の中で彼女を癒したのは、実家での畑仕事でした。土をいじっている間は目の前のことに没頭できる。ここまで打ち込める仕事なら自分のこの体でも生業にできるのではないか。3人目のお子さんも産まれさらに育児に奔走するかたわら自分が育てるべき作物を探し、やがてブルーベリーと運命の出会いを果たします。
「摘みたてのブルーベリーを食べた瞬間、自分が抱えていた苦しみや葛藤が一瞬で風に溶けてどこかへ飛んでいくように感じたんです。普段はあまりフルーツを食べない長男もブルーベリーは喜んで食べてくれました。子供でも手を汚さずに食べられるし、アロマのような香りも心地よい。品種が違うと色もそれぞれ違ってカラフルでかわいらしい。すべての要素が私にしっくりくるものでした。」
いくつかの農園を見学したりインターネットで情報を集めたりしながら知識を蓄え、2020年の春、水田だった実家の土地を使っていよいよブルーベリー園の整備をスタートさせました。
折れそうだった心に刺さった長男の言葉
お子さんやお母様の手を借りつつ、自ら地面に防草シートを敷き、パイプを立て、ネットを張り、広い農園を造り上げた城さん。その行動力と明るい笑顔からは、大きな病を経験したことなど微塵も感じさせません。
「私っていつもそうなんです。自分のキャパがどの程度か、どれだけ労力がかかるか、そういうプロセスを全部飛ばして理想に向けて行動しちゃう。それで後から痛い目を見るんですけどね。」
と笑います。
そんな城さん、開園に向けた準備期間中のお子さんとのあるやりとりが忘れられないといいます。
「ブルーベリー園の作業が毎日大変すぎて、子供のほんの小さなお願い、たとえば“歯磨きの仕上げ磨きをして”とか、そんなちょっとしたお願いも聞いてあげられず、“お母さんだって忙しいんだから!”とキレてしまったことがあったんです。そんな情けない自分に心が折れかかって、長男に言いました。“お母さんやっぱりブルーベリー園やめようかな。あなたにもすごい迷惑かけちゃうし、お母さんとして失格だよね”って。
そしたら長男が逆に励ましてくれたんです。“せっかくここまで来たのにやめたら絶対にダメだよ。ブルーベリー園は僕の夢でもあるんだから。僕も頑張るから”って。それで目が覚めました。ちゃんとやって、ちゃんとおいしいものを作って、ちゃんとお客さんに喜んでもらっている、その背中を見せないといけない。お客さんと自分の笑顔で子供たちに恩を返す、そういう姿を見せてあげないと。そう強く思いました。」
農園造りを始めてから約1年半後の2021年6月、城さんのブルーベリー園は「ベリーズパーク郡山」としてついにオープンしました。真新しい農園の中で育つブルーベリーは約80品種900鉢。摘み取り体験はもちろん、園の入り口にはブルーベリー色に塗られたかわいらしいキッチンカートが置かれ、摘みたてのブルーベリーを使ったドリンクやスイーツを楽しむこともできます。
「子供たちが心からオープンを喜んでくれて、”学校の友達を呼んでいい?”とか“先生を呼びたい”とか、すごく誇らしそうに喜んでくれたのがうれしかったですね。子供たちの健気さに支えられてオープンできたんだと心から思います。」
田舎と生活の場の間にあるような場所を目指したい
城さんが目指すブルーベリー園。それは、これまでブルーベリーや農業に縁がなかった人でも普段着で気軽に足を運べるオープンな雰囲気にあふれた場所です。
「地植えのブルーベリー園に比べれば畑に不慣れな方でも入りやすいですし、町の生活の延長線上でふらりと来ていただき、ほんのひとときでも癒しを感じていただけるような、田舎と生活の場の間にあるような場所を目指したいと思っています。」
また、母親としての自らの経験も活かしたいといいます。
「子育てって理想と現実のギャップに悩むことの連続なんですよね。“こんなはずじゃなかったのに”ってつい思ってしまう。そんなお母さんたちの気持ちが少しでも癒せる空間を作りたいです。お母さんたちが集まって悩みを相談しながらおいしいドリンクで癒されて帰っていくような場にできたらいいですね。お母さんとお子さんに寄り添ったようなイベントを開いたり、主婦の方が作った作品を集めたハンドメイドマルシェもできたらいいなと思っています。」
また、医療に従事していた経験からこんなアイディアも聞かせてくれました。
「車いすの方でも入っていただけるよう園内を段差のないユニバーサルなデザインにしたので、足の不自由な方や車いすで生活されているご高齢の方などにもぜひ来ていただきたいです。ブルーベリーには認知機能改善の効果もあるといわれていますし、いらっしゃるのが難しければポットをトラックに載せて介護施設などへ運んで、その場でブルーベリー摘みの体験をしていただくのもいいかもしれませんね。」
新しいメニューのこと。新しく育ててみたい作物のこと。次から次へと未来に向けたイメージの翼を広げる城さん。家族みんなの想いが実った夢のブルーベリー園はまさに今、多くの人に癒しを届ける場所としてその扉を開いたばかりです。
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ベリーズパーク郡山
福島県郡山市片平町字鍛治田62
https://berrys-park.com/
Instagram @berryspark.koriyama
※直売・カフェあり(10:30~16:30/6月~9月の土日祝営業。ただし、実がなくなり次第終了)
※摘み取り体験は7月・8月の土日営業(完全予約制)
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<動画>ショートムービーをご覧ください。
<放射線量に対する対策について>
ベリーズパーク郡山では、販売前に放射線量検査を実施。安全安心なブルーベリーを販売しています。
「私自身、震災直後は、子供がいたこともあって福島県産の農産物に手が伸びなかったという経験があります。そんな中、震災直後も黙々と田畑の手入れを続けている農家さんを目にして葛藤した時期もありました。そんな葛藤を経て、就農前には、積極的に福島県産の生産物を消費しよう!と購入するようになっていきました。
ブルーベリーは健康志向の方が購入するイメージがあったので、ブルーベリーを買いたいという方がわざわざ「福島県産」にお金を払い、買って食べてくれるのか、という不安があったことは確かです。
でも実際にスタートしてみると、県外からのお客様も多くいらっしゃいました。お客様との「人と人」の繋がりの中で、そこにマイナスイメージはほとんど無いのだな、ということを感じています。
風評などのマイナスイメージに焦点を当てるのではなく、プラスイメージを大きくしていくことが福島県の農業全体の活性化に繋がると思います。
今後は農家のブランドイメージをさらに向上させていきたいと思っていますし、自らの農業を通してさらに「人と人」の和を広げていきたいですね。そして福島のプラスイメージをどんどん膨らませた発信を続けていきたいです。」(城さん)