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#47 結婚し妻の実家の跡取りに。チャレンジ精神旺盛な義父のもとトマトづくりの腕を磨く。

栁田竜二りょうじさん

多くの生産者にとって悩みの種となっている後継者問題。農林水産省が発表した「令和4年新規就農者調査結果」によると、令和4年に新規就農した人の数は全国で4万5,840人。前年に比べ12.3%の減少となりました。そのうち、家業等の後継者として農業を継いだ人の数は約3万1,400人。近年で最も多かった2015年の約5万1,000人に比べて約4割減少しただけでなく、その約7割を60歳以上の方が占めました。家業としての農業を持続的に承継できる若い後継者の確保は、多くの生産者に共通する悩みとなっています。

もちろん、中には早くから農業の道へ進む決心をし、若い世代ならではの新しい道を切り開こうとする人もいます。今回ご紹介する栁田竜二りょうじさんもそんな若手生産者の一人。結婚を機に奥様の実家である農家の後継者となりました。郡山市片平町のビニールハウスで義父の栁田健一さんと共にトマトづくりに励む竜二さんを訪ね、その想いや取り組みについて話を聞きました。

農業をやると決めた以上、中途半端にしたくなかった

竜二さんは市内富田町の生まれ。農業にはまったく縁のない環境で育ち、高校卒業後は防水工事の現場で働いていました。仕事を続ける中、23歳で結婚した奥様は、農家の3人姉妹の長女。結婚すると決めた時点で、竜二さんにはすでに農業に従事する決意があったと言います。竜二さんを迎え入れた健一さんは当時をこう振り返ります。

「長女には跡取りの話をしたことはなかったと思います。でも、娘なりに少し考えてはいたみたいですね。男親の心情としては複雑な気持ちもありましたけど、跡取りになってくれることはやっぱりうれしかったです。一番心配だったのは、一度始めてから“やっぱりやめます”と言われてしまうことでしたね。」

一方の竜二さんは、当時の決意をこう語ります。

「結婚後も時々防水の現場仕事に呼ばれ手伝っていましたが、1年経った頃からは全部断りました。農家をやると自分で決めた以上、中途半端にしたくはなかったので。」

住宅地の開発が進む富田町に自宅と農地がある栁田家。既存の農地は手狭になり始めていました。健一さんは、竜二さんの就農を機に自宅から2kmほど離れた片平町に農地を確保。規模を拡大し新たなスタートを切る決意をします。

義父の病気で突然訪れた最大の試練

新しく父子となった2人のスタート。「即戦力になって欲しかったので、それはもう手取り足取り教えて」と健一さんが言えば、竜二さんは「何もわからない状態でしたから、とにかく一つでも覚えたくて」と振り返ります。健一さんに教えを乞いつつ、県や市の長期農業研修などにも参加しながら農業を学びました。

「一番大変だったのはトラクターですね。操作はまったく問題なかったんですが、振動がものすごくて乗り物酔いしてしまって。田んぼに行くためにトラクターをトラックに乗せたり降ろしたりするのも大変で、雨で視界が悪い日にトラクターを降ろすのをミスして、土手に落としてしまったこともありました。」(竜二さん)

「うちは家族経営で人手が少ないですから、規模が大きくなればどうしても機械が必要になります。これはもう慣れてもらうしかないと思って、とにかく数をこなしてもらいました。」(健一さん)

そんな中、2年目の春に健一さんを病が襲います。季節はちょうど、冬場に眠っていた田んぼの土をトラクターで起こす「田うない」の時期。入院した健一さんに代わり、竜二さんが一人でトラクターを操ることになりました。教わったことを思い出しながら田んぼを起こす日々。作業が終わると健一さんの病室を訪ねて一日の作業を報告し、翌日の作業の指示を仰ぎました。

「それまでは言われたことをやればいいと思っていたのに急に一人になった。あの時が今までで最大の試練でしたね。でも、逆にそういう環境に置かれたことで、しっかり仕事を覚えなくちゃいけないという気持ちになれたのかもしれません。」(竜二さん)

幸い健一さんは軽症で後遺症もなく、代掻きの時期には田んぼに復帰。2人で作業する日々が無事に戻ってきました。

一緒に栽培を学んでもスタイルは父子それぞれ

コメづくりの一方で2人が共に取り組み始めたのがトマトの生産です。健一さんも本格的なトマトづくりは初めて。生産者に向けて栽培や経営のサポートをおこなう郡山市の園芸振興センターに揃って通い、一緒に学びながら栽培をスタートさせました。現在、竜二さんは2棟、健一さんは5棟のハウスを担当しています。

しかし、同じタイミングで同じように知識を身につけながらも、それぞれがベストと思う栽培方法は異なると言います。有機肥料を取り入れ環境に配慮した栽培に取り組む点は共通していますが、竜二さんは基本に忠実に。一方の健一さんは、有機肥料に土やモミガラなどを混ぜて発酵させた「ぼかし肥料」に加え、廃トマトを使った乳酸菌入りの自家製肥料を使うなど、新しいスタイルを積極的に取り入れています。

「お父さんから、“もっと水をかけたら?”とか“消毒すれば”と言われても、いいですって断ることもあります。逆に、お父さんが消毒しているのをチラッと見てこっそり“真似すっかな”と思うこともありますけど、全部を真似することはないですね。」(竜二さん)

「基本的には“はい”と聞きますけど、違うと思うものには頑として譲らないところがありますね。だから、私は彼のハウスを見ないようにしているんです。いろいろ言いたくなるんで」と竜二さんを語る健一さん。それぞれが作ったトマトを食べることもありますが、肥料が違えば味も当然変わります。「自分が作ったトマトのほうがやっぱりおいしいですし、仮にそうじゃなかったとしても、そっちのほうがうまいとは口が裂けても言いたくないですね」と笑います。

こうした切磋琢磨が実り、「ふくしまバーガーサミット2022 in 桑折」では、郡山のブランド牛「うねめ牛」を使ったハンバーガーに竜二さんが作ったトマトが採用されました。直売所でも、甘みも旨みも濃厚なトマトとして人気を博しています。

これからは干し芋などの加工品も増やしていきたい

肥料だけでなく栽培する作物についてもチャレンジ精神旺盛な健一さん。最近では、さつまいも、トウモロコシなどの栽培にも取り組んでいますが、それも作業の重要な戦力である竜二さんの存在あってのことです。

「コメはうちの収入の柱ですが、コロナ禍では価格が変動して大きな影響を受けました。そうした苦労がないように、コメだけに頼らない農業で安定した収穫のサイクルを作っていきたいと思っています。」(健一さん)

一方、竜二さんは加工品の製造と販売にチャレンジしようとしています。出荷できない規格外のさつまいもを有効活用しようと2021年に干し芋乾燥機を購入。この機械をどんどん活用していきたいと意気込みを語ります。

父と刺激しあい、挑戦しあいながら歩む竜二さんの農業の道。2人の相乗効果で品質向上と収量拡大を目指す毎日を送っています。


栁田竜二
福島県郡山市片平町中川原南


〈栁田さんのトマトが買える店〉
※入荷状況によりご購入いただけない場合があります

■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1丁目160
TEL 024-973-6388

■あぐりあ
福島県郡山市安積町成田1丁目20-1
TEL 024-945-7483
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1007

■郡山市磐梯熱海観光物産館(ほっとあたみ内)
福島県郡山市熱海町熱海二丁目15-1
Tel 024-953-5408
https://www.kanko-koriyama.gr.jp/tourism/detail3-10-508.html

■旬の庭 大槻店
福島県郡山市大槻町字殿町64-1
Tel 024-966-3512
http://www.ja-fsakura.or.jp/service/tyokubai.html

■愛情館
福島県郡山市朝日二丁目3-35
TEL 024-991-9080
https://www.zennoh.or.jp/fs/store/aizyokan.html


<動画>ショートムービーをご覧ください。

取材日:2023.8.23
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)