♯37 湖南の地で挑む前例のないブドウ作り。厳しい冬の寒さが生み出すここだけのシャルドネの味
jardin du lac
小山順平さん
郡山市随一の絶景スポット、湖南町の「布引風の高原」。標高約1,000m 。33基の巨大風車が建ち並び、日本最大級の風力発電施設がある高原として知られています。眼下に猪苗代湖、その先には磐梯山を見渡し、夏はひまわり、秋はコスモスの花が彩る人気の観光地です。
その布引風の高原を見上げる田園地帯の一角に、若々しい枝を伸ばすブドウ畑が広がっています。植えられているのは、白ワインの代表品種「シャルドネ」。その数は約1,000本にも及びます。
このシャルドネを育てるのは、この地で生まれ育った小山順平さん。地元に新しい産品を作ろうとこの畑を拓いた若手栽培家です。彼がワイン用ブドウの栽培に込める想いや、湖南の気候を活かした独自の取り組み、そしてこの先に見据える未来について語っていただきました。
「無理だという意見もあったけど、“俺はやるからねって”(笑)」
ブドウ畑に程近い集落にある農家に生まれた小山さん。2016年に就農し、最初の2年はお父様のもとでコメ作りに取り組んでいましたが、その作業のかたわら、湖南の土地に根差した新しい作物を作れないかと想いを巡らせていたと言います。
「湖南町は行政区としては郡山市ですが、地元の人達と話してみると、“ここは郡山市というよりも湖南町”という感覚を持った人が多いように感じます。自分も、湖南で生まれ育ち湖南で農業に携わる者として、この土地にフォーカスした何か、今までこの土地で誰も作ったことがない何かを作りたいという気持ちを持つようになりました。」
さまざまなイメージを膨らませる中、ふくしま逢瀬ワイナリーがワイン用ブドウを生産する農家の輪を広げていることに小山さんの意欲は掻き立てられます。自然が豊かである反面、冬は雪に覆われる日が多く、気温が-15℃前後まで下がることも珍しくない湖南の冬。しかし小山さんは、先輩生産者に話を聞き、自らさまざまな調査を重ねたうえで、湖南でもブドウ作りができるある程度の確信を得ます。2019年、コメ作りを続けながら、田んぼだった土地を活用して未知のチャレンジをスタートさせました。
「北海道での栽培事例もありますから、湖南でもきっとうまくいく見込みはありました。でも周囲からは反対意見も多かったですね。前例がなかったので当然だと思います。最後は“いろんな考え方もあるだろうけれど俺はやるからね”って感じでした(笑)。」
湖南の冬の寒さがここだけの味を作る
しかし、ブドウ作りに心から注力できるようになるまでには時間を要したと振り返ります。
「自然も植物も好きなんですが、仕事として割り切って考えることがなかなかできなくて…。学んだ通りにやったからといって思い通りにいくとは限らないし、うまくいかなければ嫌にもなるし、作物が病気になればなったで投げ出したくもなる。そんなことの連続で、最初はぜんぜん好きになれなくて…。作業を覚えること以前に、まずこの仕事自体を好きになることから始めた感じです。何があっても、とにかく1日5分でもいいから毎日足を運ぶ。そうすると小さな変化が見えて来て、その変化が楽しみに変わってくる。そんなことを重ねることで、時間はかかりましたが自然と好きになっていきました。」
ひと口にワイン用ブドウといっても、品種によって土地や気候との相性はそれぞれ違います。その中で小山さんが選んだ品種は、白ワイン用ブドウの代表品種である「シャルドネ」でした。シャルドネはワイン用品種の中でも気候条件や土地の特徴が出やすいといわれています。湖南で作ったブドウにこだわるにはぴったりの品種でした。
「普通はブドウの糖度が上昇していくとpH(ピーエイチ)値が上がり、酸が抜けていってしまうのですが、湖南は冬にしっかり寒くなることでpH値の上昇を抑えることができ、酸をしっかり残すことができます。酸が残っているかどうかはワインの風味に大きく関係する要素ですので、これは郡山市内でもここでしか出せない特徴だと思います。
また、湿度が高い環境だと病気にかかるリスクも高くなりますが、数字で見る限り、このあたりは郡山市内に比べて湿度が低いんです。実際それが生育にもプラスに働いています。これも湖南ならではの味につながるものだと考えています。」
ブドウ作りにも多様性の考え方は必要
栽培方法に関しても、小山さんは湖南の気候に適応したスタイルを取り入れています。樹間を広く取り幹から左右に長く枝を伸ばす手法は郡山市内でもよく見られる栽培スタイルですが、小山さんは枝を斜めに伸ばし、樹間を狭くすることで、雪の重みで枝が折れてしまうことを防いでいます。
さらに、小山さんは土づくりにも力を入れました。一般的に水はけの良い土地に適しているといわれるブドウ栽培。それを考慮してブドウ畑は傾斜地に作られることが多いですが、小山さんのブドウ畑は平地にあります。しかも、もともと水田に使っていた土地であるため土が固く、水はけは決して良くはありませんでした。そこで、ブドウの根が張りやすいよう土を柔らかく改良すると同時に、ブドウの木が水を吸い過ぎないようにあえて雑草を駆除せずに栽培をしています。
「最近よく多様性という言葉を耳にしますが、ブドウ作りも多様であっていいのだろうと思います。傾斜地での栽培は確かに水はけの点でメリットがありますが、養分も一緒に流れていってしまうデメリットもあります。雑草も普通は成長を阻害するものと思われがちですが、環境によっては共存できるものになります。
どんな作物でもそれぞれの環境に適した栽培方法があると思いますが、ブドウは特に環境によって柔軟に育て方を変えるべき。多様性に通じるその考え方が自分には合っていると思っています。」
2019年に植えられたシャルドネは小山さんの献身的な栽培で順調に収量を増やし、2021年の収量は約300kg。2022年にはいよいよ本格的な出荷を迎える予定です。
純湖南産ブドウのワインを作りたい
小山さんの栽培家としての夢。それはやはり、自分が育てたブドウを使ったワインが生まれることです。
「ここのブドウだけを使った純湖南産のワインを作り、それを流通させたい。それが僕の今の最大の目標ですね。地域のおじいちゃん達も“ブドウなったがい?”って気にかけて見に来てくれることが多くなりました。みんな“地元の酒”ができるのを楽しみにしてくれている。それがうれしいです。」
最近では地域の人々や移住者の方、学生らとも関係を深め、ワイン作りを通した地域のネットワーク作りにも関わる小山さん。自分が作ったものが湖南の顔になる。そんな責任感や使命感が年々高まっているようです。
「いろいろな人が関わってくれて輪が広がっていくのを見ているのが好きなんです。これから湖南を訪ねてくれる人たちには湖南のファンになって帰ってほしいですし、何度も足を運んでほしい。この畑がそのきっかけの一つになればいいなと思っています。」
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福島県郡山市湖南町赤津
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<動画>ショートムービーをご覧ください。
<放射線量に対する対策について>
「私は震災後に就農していますが、就農前に抱いていた福島のイメージといえば、農業が盛んで、その中でも特に「コメどころ」「果樹が美味しい」というものでした。実家が稲作農家なので、お米には特に良いイメージを持っていました。
自分が就農して思うのは、被災地と言えど、現場に目を向ければ目の前の事に一生懸命取り組むという姿勢は何処も変わりはないということです。もちろん(原発事故の)事実は変えられませんが、この土地で農業を行う以上は、この地に根差したものを生産していきたいですね。
震災当初は日本のみならず、海外でも「フクシマ」というワードをネガティブに捉えられる事が多かったように感じますが、日本は世界と比べても農業分野においてより細かい生産技術が優れています。
ネガティブなイメージを技術で克服する事で、風評被害を払拭していきたいです」