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#50 畑をやめるつもりだった父。受け継ぐ4代目の想いは、「たくさんの“欲しい”の声に応えたい」

濱津農園
濱津和也さん

阿武隈川と谷田川の2つの河川に挟まれた郡山市東部の田村町金屋地区。冬、ここで農業を営む濱津和也さんの畑では、郡山ブランド野菜の「御前人参」や「紅御前」がいきいきとした緑の葉を伸ばします。「ここは砂地なので人参がまっすぐ育ちやすいんです」とい言いながら、きれいに伸びた抜きたての人参を見せてくれました。

この地に生まれ育った濱津さんが農業の道に入ったのは2021年4月のこと。大学進学後は東京で生活していましたが、一つの想いをきっかけに郡山へ戻ってきました。そのきっかけとは何か、また、生産者としての想いや描く未来を語っていただきました。

東京で子供を育てるイメージが湧かなかった

濱津さんの実家はこの地で4代続く農家。和也さんは父・洋一さんの次男として生まれました。子供の頃から生活のすぐ近くに畑や田んぼがありましたが、自身が土や野菜に触れる機会はほとんどなかったと言います。

「仕事を手伝わされた経験がほとんどないんです。小学校の時、農業体験の授業でうちの畑を使ってもらったことがあって、その時に自分も友達と一緒に初めて体験した感じ(笑)。だから、農業を仕事にするなんて考えたこともありませんでした。父は40代まで会社勤めをしてから農家を継ぎましたが、その歳まで継がなかったのは、農業が好きではなかったからだと。だから、子供には農作業を強制したくなかったんだと思います。」

和也さんは大学進学で上京し、卒業後はそのまま東京で転職エージェントに就職します。仕事は順調。奥様との出会いもあり、充実した日々を送っていました。しかし、一方では東京で人生を送ることに違和感もあったと言います。

「東京で子供を育てるイメージがまったく湧かなかったんです。小学生が1人で電車に乗って通学しているのを見たりすると、自分が育った環境とあまりに違うなと思ってしまって。」

30歳を目安に郡山に戻ることを考え始めた和也さん。子供を授かったこと、新型コロナウイルスの感染拡大が仕事に影響を与え始めたことなど、さまざまなタイミングの重なりに背中を押され、Uターンを決意します。地元に戻ったらどんな仕事に就こうか。そう考えた時に最初に頭に浮かんだのが、家業である農家でした。

自分が正解かはわからない。好きにやってみろと

その頃、郡山では、父の洋一さんが和也さんとは別の思いを持ち始めていました。

「自分の代で農業をやめようと思っていたそうで、借りていた畑を返すなど、まさに規模を縮小し始めるタイミングでした。だから、最初は反対されるだろうと思ったんです。でも、思ってもみない返事が返ってきました。“大金持ちにはなれないけれど、やり方次第で十分やっていけるんじゃないか”と。きっとうれしかったんだと思います。言葉として直接そう聞いたわけではないですけど、確かにうれしそうに見えましたし、もし自分が父の立場だったら、やっぱりうれしいだろうなって想像しています。」

そうして経験ゼロからスタートした和也さんの農業。高齢のため野菜作りをやめた近所の生産者のビニールハウスを預かり、洋一さんのサポートのもとで野菜作りが始まりました。ただ、その関係はつかず離れず。それぞれ別々の畑やビニールハウスを受け持ち、互いの仕事にはほとんど口を出さず、困った時に相談するぐらいの距離感。それが自分には良かったと言います。

「父も会社勤めを経てゼロから農業を始めましたから、“教えるほどの専門的な知識はない”というスタンスなんです。自分はこういうやり方でやってきた。でも、それが正解かどうかはわからない。だから好きにやってみろと。その代わり、父の知り合いの農家さんを紹介してもらって学ぶことも多くありました。」

同じスタートラインに立つ仲間とのつながり

そのなかでも大きなつながりとなっているのが、郡山ブランド野菜を手がける生産者たちとの出会いです。特に、若手のメンバーが参加して月1回開催される勉強会「ビギナーズ」からは多くの気づきを得ていると言います。

「生産者として、食べる人のことまで、消費される瞬間までを考えなければいけないという考え方。日々の生活を思うと、自分にとって作りやすい野菜をたくさん作ってたくさん売ることがすべてという考えになりがちですが、野菜作りに向き合う際の参考にさせてもらっています。」

鈴木農場の鈴木光一さんを中心に2003年に始まった郡山ブランド野菜のプロジェクトには市内各地の生産者が参加しています。父の洋一さんもそのメンバーの一人ですが、スタートから20年が経ち、その取り組みは少しずつ次の世代に受け継がれつつあります。

「ビギナーズのメンバーは世代的には僕より上の方が多いですが、農家になったタイミングはだいたい同じで、農家として考えていることも近いんです。そういう仲間ができたことはありがたいですね。しかも、年齢でいえば人生の先輩ばかりなので、子育てとの両立とか、農業以外の面でアドバイスをもらえるのもうれしいです。」

成功することで“農業っていいよ”と伝えたい

現在栽培しているブランド野菜は、「御前人参」や「紅御前」のほか、キャベツの「冬甘菜」、さつまいもの「めんげ芋」、玉ねぎの「万吉どん」の5品種。それらに加え、春先にはスナップエンドウを、夏場にはきゅうりをメインに手がけます。若い和也さんが加わったことで、一度は縮小に向かおうとしていた濱津家の野菜の収量は大幅な増加に転じました。

「人参は以前の3倍以上です。父も、“こんなに取りきれない”と言ってはいますが、楽しんでやっていると思います。個人的にはこれからさらに収量を増やしたいと思っていて、市の農業委員でもある父に協力してもらいながら新しい農地を探しているところです。

ただ、父もこれまでずいぶん頑張ってきましたし、僕の思いだけで農地を広げて父や母を働かせ続けるのはちょっと違う気がするんですよね。」

そこで今、和也さんが検討しているのが、パートで働いてくれるスタッフの雇用です。農業の道に飛び込んで約3年。収量が安定してきたまさに今が、和也さんにとっての新しい取り組みへの転換点なのかもしれません。

「できるだけたくさんの“欲しい”という声に応えたいと思っていますし、個人的に作りたい野菜もたくさんあります。果樹もやってみたいですね。実は去年、ブルーベリーを育てて観光農園みたいにできたらと思って苗を買ったんです。そんな目標を叶えるためにも、人を増やしていければと思っています。」

そして、そうした夢の先にある農業への想いをこう続けてくれました。

「転職エージェントで誰かの転職をサポートする仕事をしていたからかもしれませんが、せっかく転職したからには自分も成功したいという思いがあるんです。正直、農業ってあまりいいイメージを持たれないじゃないですか。だからこそ、経済的にもやりがい的にも、“農業ってめちゃくちゃいい仕事ですよ”っていうことを、自分が成功することで伝えていきたいと思っています。」


濱津農園
郡山市田村町金屋平舘12
https://www.instagram.com/kazuya0182/


<濱津さんの野菜が買える店>
※入荷状況によりご購入いただけない場合があります

■愛情館
福島県郡山市朝日二丁目3-35
TEL 024-991-9080
https://www.zennoh.or.jp/fs/store/aizyokan.html

■あぐりあ
福島県郡山市安積町成田1丁目20-1
TEL 024-945-7483
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1007

■ベレッシュ
福島県郡山市八山田西1丁目160
TEL 024-973-6388

■ヨークベニマル
https://yorkbenimaru.com/store/
※店舗により取り扱いがない場合があります

<濱津さんの野菜が食べられる店>
※入荷状況により提供がない場合があります

■居酒屋しのや 郡山駅前本店
郡山市中町11-1クラブ第一ビル1階
TEL 024-983-0081
https://www.instagram.com/shinoya0610/


<動画>ショートムービーをご覧ください。

取材日:2023.12.20
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Movie by 杉山毅登(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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