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【フロンティアファーマーズ特別編】できるだけ多くの地元野菜をお皿に盛り込みたい

旬のベジカフェバル Best Table 料理長
芹沢 靖夫さん


郡山市民の憩いの場、開成山公園にほど近い街の一角に、木立ちに包まれるように佇むBestTable。ベストな時に、ベストな地元食材を、ベストな調理で――。そんなコンセプトのもと、地元で穫れたばかりの新鮮な野菜をたっぷりと味わえるお店として、いつも多くのお客様で賑わっています。

キッチンで腕を振るう芹沢靖夫料理長は、この道約30年のベテラン。2018年のBest Tableオープン時からこの店の味を守り続けています。芹沢料理長に、ご自身のキャリアやBest Tableでの料理のこだわりなどを聞きました。

野菜は脇役だとずっと思っていた


芹沢料理長は田村市船引町の出身。国内のフランス料理店でキャリアをスタートした後、郡山駅前のアジア料理店で約20年にわたり働きました。ただ、Best Tableに移るまで、野菜にこだわって料理を作ったことはほとんどなかったと振り返ります。

「アジア料理では野菜はあくまで脇役の位置づけですし、正直、味をつけてしまえばどれも一緒だろうと思っていました。メインの肉や魚さえしっかり調理されていれば、脇役にはそれほどこだわらなくてもいいという考えだったんです。しかし、地元野菜を提供することをコンセプトにしたこの店に入り、考え方がまったく変わりました。

お店のオープン時、従業員みんなで畑に行きました。そこで生産者のみなさんから直接話を聞き、野菜を育てることの苦労や作業の大変さを体験したことで初めて、野菜の調理を本気で考えるようになったんです。」

Best Tableに移って6年。今、芹沢料理長は、一つひとつの野菜の味を確かめ、火の入れ方や切り方に細かく気を配りながら、野菜にとって一番良い状態を引き出す調理を心掛けているといいます。

野菜ごとに異なる最良の調理法を理解すること

芹沢シェフに、地元野菜を使ったメニューを2品ご用意いただきました。1品目は、「御前人参と海老のグリル、黒にんにくのタプナードソース」。市内大槻町、鈴木農場で育った郡山ブランド野菜の御前人参を、火を入れ過ぎない程度にゆっくりとフライパンで焼き、あえて食感を残して仕上げたメニュー。芹沢シェフのフレンチの経験が活きた1品です。

御前人参と海老のグリル、黒にんにくのタプナードソース

「御前人参は、誰が食べてもはっきりとわかるぐらい、他の人参とは味が違います。生でも食べられるほどの甘みがあって、人参臭さがまったくない。“今まで絶対に人参を食べなかった子供が、御前人参ならおいしいと言って食べる”という話もよく聞きます。郡山ブランド野菜は郡山の土に合う品種かどうかを見極めて作られているそうですが、そのなかでも御前人参は、まさに郡山の風土に合った野菜なんだと思います。」

もう1品は、「白菜とアボカドとスモークサーモンのグラタン」。こちらも鈴木農場で収穫された白菜をふんだんに使ったメニューです。白菜は柔らかくとろっとした食感。やや酸味のあるドライトマトをアクセントに加えました。

白菜とアボカドとスモークサーモンのグラタン

「白菜は、最初に表面を炒めて水分をある程度飛ばしてから、グラタン皿に盛りつけてオーブンに入れます。そうすることで、柔らかさと食べやすさが引き立ちます。」

人参と白菜でこれだけ調理法が異なることからもわかるように、野菜の調理は品種ごと、メニューごとに配慮すべきポイントが異なると芹沢シェフは言います。

「肉や魚は素材そのものの味が強いので、調理方法もある程度決まってきます。それに比べ、野菜は一つひとつに調理の幅があります。焼いたり、煮たり、揚げたりと、野菜ごとにさまざまな調理方法を試してみて、どれが最適かを理解したうえで使うようにしています。いろいろ試した結果、凝った調理をしないほうが良いものもある。テクニックよりも、食べておいしいかどうかを基準に調理方法を考えるようにしています。」

野菜それぞれの特性を踏まえたオリジナルでユニークなメニューを提供する芹沢シェフ。そのアイディアを、野菜を提供する生産者のみなさんも楽しみにしているようです。

「生産者さんのなかには、ときどきお客様としてお店に足を運んでくださる方もいらっしゃいます。料理を気に入ってもらえるか、緊張もありますが、“あの野菜がこうなるのか!”という驚きの反応をいただくとうれしいですね。」

「地元産を使っている」と言うからには


調理法に加えて芹沢シェフがこだわるのが、提供する料理のボリューム感。東京方面から来るお客様からは、「この値段でこの量はすごい。東京では絶対に食べられない」といった感想をよく聞くそうです。

「質の高い料理を提供することはもちろん大切ですが、たくさん食べていただきたいというのが、料理人としての私の一番の気持ちです。それに、“地元の食材を使ってますよ”と言っているのに、お皿にほんの少しだけしか地元食材が使われていないのでは意味がないと思うんです。

食べて地元を実感していただくためには、とにかくたくさん使うこと。できるだけ多くの野菜をお皿に盛り込みたいので、規格外のサイズだったり形が悪かったりして商品としては売れないような野菜でも、味に問題がなければ積極的に仕入れています。スープに使ったり、いくらでも活用方法はありますからね。」

「飲食店にできることは野菜を使うことだけですから。」

そんなふうに芹沢料理長は謙遜します。しかしそこには、本当においしい野菜を、無駄にすることなく、少しでも多くの人に届けようという強い想いがあります。

「生産者の想いをできる限り伝えようという気持ちでやってきました。たくさん使うことや季節に合わせて使うことで生産者のみなさんの力になれればと思いますし、6年間続けてきたことで、少しは貢献できているのかなと思い始めています。」


■旬のベジカフェバル Best Table
郡山市朝日1-14-1
TEL 024-983-3129
https://besttable.gorp.jp/

取材日:2024.3.14
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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