【フロンティアファーマーズ特別編】「畑から調理をしている」と言える。 それが自分の誇り
伊藤和将さん
郡山駅前アーケードの一角にあるItalian MASHIRO(イタリアンマシロ)。キッチンでは、仙台からやって来た一人の料理人が腕を振るっています。名前を音読みして周囲から「わしょーさん」と呼ばれる彼が目指すのは、自ら野菜を作り調理する料理人。郡山での生活を始めてからの3年余りで市内の複数の生産者とつながり、料理で、また農業でも、郡山に新しい風を吹かせ始めています。
なぜ彼は農業をしながら料理を作るのか。Italian MASHIROを訪ね、わしょーさんにお話をうかがいました。
農業も料理もやりたくて郡山に来た
わしょーさんこと伊藤和将さんは仙台市の出身。地元の専門学校で料理を学んだ後、長野の会員制ホテルや仙台の結婚式場、介護施設などで料理人として働いてきました。郡山へ移ったのは2021年2月。熱海町で農家レストランの開業を計画する郡山出身の友人からの誘いでした。その誘いに乗ったのは、料理人として思い描く理想の姿があったからです。
「畑に種をまいたり苗を植えたりするところから始めて、収穫して、料理して、提供する。この一連の流れを自分でやりたかったんです。仙台にいた頃から父の実家の畑で野菜を作ってはいたんですが、郡山へ行けば、やりたいことをより具体化できるんじゃないかと思って。」
農家レストランの計画は結局頓挫してしまいましたが、その過程で、湖南町でコメやトマトの生産を手掛ける美農然の齋藤章輔・幸江さんご夫妻との交流が生まれ、農作業を手伝うようになります。さらに、美農然からのつながりで、同じ湖南町でシイタケを栽培する愛椎ファミリーの小椋和信さんを手伝ったり、やはり湖南町でワイン用ブドウを生産するjardin du lacの小山順平さんと出会い畑を貸してもらったりと、湖南町でのつながりが増えていきました。
2023年からは、やはり湖南町で知人のブルーベリー畑を継承。隣接する約4反の畑も借り受けて複数品目の野菜を栽培するなど、農業と料理の両立が実現し始めています。
「朝7時には美農然さんや小椋さんの手伝いに行き、その足で自分の畑の手入れをして、ランチの営業に向けて郡山駅前に移動し、ランチもディナーもさばいて1日が終わる。毎日がパンパンの日々ですけど、そのおかげで、“僕は畑から調理をしている”と言える。そこが自分の誇りですね。
それに、もともと農業も料理もやりたくて郡山に来たので、どちらか一つをやっていた時よりも仕事のバランスが取れているように感じます。仕事のバランスというと一般的には仕事とプライベートのバランスのことかもしれませんけど、僕の場合は、仕事と仕事のバランス、みたいな感じです(笑)。」
郡山は野菜の旬が長い土地
作物を固定せずさまざまな品目を育てているというわしょーさん。その理由を、「料理人としては多品目じゃないとおもしろみがないので」と語ります。季節や土地との相性を考えながら、そのとき自分が気になったものを作る。それが、生産者としてのわしょーさんのこだわりです。
「今までいろいろなものを植えてきました。とりあえず種を買って、植えてみる。土地に合う・合わないもありますし、僕の育て方に合わない野菜もあるので、そこを見極めながら継続して育てる品目を選ぶようにしています。」
また、自ら育てていない野菜は市内の生産者から直接仕入れるなどして、地産地消にこだわりながら食材を使っています。
「料理人はみなさんそうだと思いますけど、僕はただ、おいしい食材を使いたいだけなんです。そうすると自然に地産地消に行きつくんだと思います。“どこどこの町のどの野菜はおいしい”とか、多少あるとは思いますけど、産地から近くてすぐに食べられる野菜が一番うまい。その究極が、自分で作って自分で提供することなんじゃないですかね。究極の6次化というか、おすそ分けしている感覚に近いかもしれません。」
わしょーさんは、生産地としての郡山にどのような魅力を感じているのでしょうか。
「料理人としては、いろんな野菜がいろんなタイミングで欲しい。その点で、郡山は野菜の旬が長い土地だと感じます。ひと口に郡山といっても、郡山市街と湖南町では気候がまったく違うので、市街地に近い畑ではもう収穫が始まっているものが湖南ではまだまだこれから、ということもよくあります。場所ごとにおいしくできるタイミングを見極めて、そのタイミングで収穫してそのまま料理にできる。そして、その期間が長い。料理人としてはとてもありがたい環境です。」
頑張っていれば見てくれている人もいるのかなって
わずか3年でさまざまな広がりを見せるわしょーさんの郡山での活動。「人間関係はそんなに得意なほうじゃないんですけどね」と謙遜しつつ、その広がりの理由をこう語ります。
「ひたすら作業に没頭して、ひたすら仕事をしていたら、畑の脇を歩いている方が声をかけてくれたり、おばちゃんが飲み物を差し入れてくれたり。そのつながりから、草を刈る機械を譲ってもらえたり、畑を借りられることになったりと、知らないうちにいろいろなご縁をいただいてきた感覚です。頑張っていれば見てくれている人もいるのかなって思います。」
最近ではすっかり「郡山がホーム」という気持ちで仕事に励んでいるというわしょーさん。この先、農業と料理の両立でどんなふうにわたしたちを楽しませてくれるのでしょうか。
「自分が今やっていることが完成形だとは思っていません。せっかくブルーベリーも始めたので加工品を手がけたいと思ったりもしますが、現状を極めるまでは次を考えるタイミングではないかな。農業も料理も、今やっていることの精度を高め、まずはやれるところまでやってみること。それが将来の自分への投資になると思っています。」
Italian MASHIROでは、郡山市が市町村別生産量で日本一を誇る鯉も取り入れるわしょーさん。郡山産食材への愛着とこだわりを感じさせてくれる「郡山の料理人」として、これからも腕を振るい続けます。
■わしょーさん Instagram
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■Italian MASHIRO(イタリアンマシロ)
福島県郡山市駅前2-3-5 エリート27 2F
TEL 024-953-4038
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