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【フロンティアファーマーズ特別編】 世界一と胸を張って言える生産者が福島にはたくさんいます

株式会社しのや 代表取締役
篠原祐太郎さん

フロンティアファーマーズではこれまで、郡山市やその周辺の市や町で農業に取り組む50組もの生産者を紹介してきました。彼らが作った農産物にはそれぞれの個性溢れるストーリーが詰まっていましたが、そのストーリーをより身近に感じるために欠かせないのが、飲食店や販売店の存在です。

50組の生産者を紹介した節目に、フロンティアファーマーズ特別編として、郡山で飲食や販売の仕事に携わる方々が日々どのように食と向き合い、私達に届けてくれているのか、その想いを4回シリーズで取材します。

第一回は、郡山駅前、なかまち夢通り沿いにある「居酒屋しのや 郡山駅前本店」を訪ね、代表取締役の篠原祐太郎さんに話を聞きました。

福島の日本酒との出会いがすべての始まり

居酒屋しのやが掲げるお店のコンセプトは、“ふくしまを丸ごと味わえる居酒屋”。郡山市はもちろん、県内各地の生産者から直接契約で仕入れた新鮮な食材を工夫を凝らした料理に仕立て上げ、お客様に提供しています。

愛椎ファミリーしいたけホイル焼き。
郡山市湖南町の愛椎ファミリー・小椋和信さんが育てたしいたけを使用。

社会人になって以来、飲食店で働くことが多く、チェーンの居酒屋で店長を任されたこともあった篠原さんが「しのや」をオープンしたのは、2014年10月のこと。“ふくしまを丸ごと”のコンセプトに至った経緯をこう言います。

「東日本大震災が起きたことで、福島県の食の価値は地に落ちてしまいました。インターネットで『Fukushima』と検索すると原発と津波の画像しか出てこないような世の中になり、家族のことも考えると、このまま食に関する仕事を続けていいのだろうかと思い始めてていました。

そんなある日、当時勤めていたお店のお客さんに、“福島にはうまい酒がたくさんあるのに、なぜお前の店ではそれを出さないんだ”と言われたんです。チェーン店でしたから仕方ないところもあったのですが、確かに県内のお酒はほとんどありませんでした。そこで、そのお客さんに紹介してもらい、会津のとある酒屋さんを訪ねました。

実は僕、居酒屋で働いているのにお酒が飲めなかったんです。でも、その酒屋さんに勧められて飲んだ日本酒は、飲めない僕でも心からおいしいと思えるような素晴らしい日本酒でした。それ以来、本部に隠れて地元のお酒を仕入れてお客さんに提供するようになり、自分がおいしいと思うもの、誰かに勧めたいと思えるものを提供する喜びを知りました。ずっと下を向いていてもしょうがない、福島のおいしいものをみんなに発信していこうと思うきっかけの出来事でした。」

「地元の食材を知らず、自分は職務怠慢だったんだなと」

福島の日本酒の魅力に触れ、それぞれの酒蔵が持つ個性を知るなか、篠原さんは、そのおいしさをさらに引き立てる食の存在に意識を向けるようになります。

「他のいろいろなお酒にはない日本酒ならではの魅力。それは、地域の食材や食文化に合わせて酒質が設計されていることです。たとえば、海に近い地域では古くから生で魚を食べる文化がありますから、淡麗辛口で生臭さを消すようなお酒が多いですし、かつては干した魚しか流通できなかったような内陸の地域では、その旨みに負けない芳醇で骨太なお酒が多い。そうした日本酒の魅力を最大限に知っていただくためには、地元食材とのマリアージュが一番だろうと考えました。」

そうして取り入れた地元食材メニューの第一号は、郡山市・鈴木農園の「ジャンボなめこ」を使った天ぷら。そのおいしさに篠原さんは、日本酒を初めておいしいと感じた時と同じような大きな衝撃を受けたと言います。

ジャンボなめこの天ぷら

「ずっと居酒屋で働いてきたのに、地元にこんなにおいしいものがあることを知らなかった。今までの自分は職務怠慢だったんだと思い知らされました。」

篠原さんは、「おいしいものを作っている人はおいしいものを作る人を知っている」と言います。ジャンボなめこを取り入れて以来、生産者とのつながりが次の生産者とのつながりを生み、今では県産食材を使ったメニューを季節ごとに切れ目なくリレーできるほど、生産者とのつきあいは増えました。その数およそ50軒。すべて篠原さんが直接足を運び、想いや取り組みを聞いたうえで契約しています。

環境を嘆かず活かそうとする生産者が郡山には多い

郡山で農業に取り組む生産者の、また、彼らが生み出す農産物の魅力について、篠原さんはこう語ります。

「粘土質の土地も多く、野菜作りに向いた農地ばかりとは決して言えない郡山の土地で、いかにおいしい食材を作るか。まずはそのチャレンジ精神に凄みを感じます。たとえば、郡山ブランド野菜の御前人参を手がけるagrityさんでは、粘土質の田んぼの真ん中であえて人参を作っています。普通はそんなことやろうとしないですよ。でも、“田んぼでも人参が育つ事例ができれば生産者の可能性が広がり、生産者の生活をもっと良くしていけるんじゃないか”といって、あえて取り組んでいる。ニッケイファームさんでも、粘土質だからこその栽培方法を積極的に取り入れて野菜を作っています。恵まれない環境を嘆くのではなく、それを逆に活かそうとしている人が多い印象ですね。


そもそも彼らは、震災の影響で農産物を純粋な目を見てもらえず、初めから弾かれてしまうような経験をしてきました。でも、そこでくじけず、もっと良いものを作って見返してやろうとした。そんな強い精神を持った生産者が郡山には多いと感じます。そのせいか、野菜の味にも力強さを感じるんですよね。」

篠原さんは、生産者のそうした頑張りを広く知らせていくためにも、自分たちのような立場の存在が必要だと語ります。どんなにおいしい食材があっても、その価値を発信する場がなければ、その魅力は私たちのもとまで届きません。自分の店をしっかり繁盛店に育て、生産者も消費者も自分たちもメリットを感じるようにしたい。それが篠原さんの理想です。

『Fukushima』と検索したら料理の画像ばかり出てくる世界を

篠原さんは今、飲食店の経営と同時に、つながりのある生産者の食材を販売する「旬鮮直 食材しのや」の運営にも力を入れています。スタートは2020年。コロナ禍で居酒屋が営業できず、自分たちの存在価値を見失ってしまいそうな空気のなか、社会に対して何ができるのか、社員と共に考えた一つの答えだったと振り返ります。

もともと篠原さんは、生産者と飲食業者の間に立ち、しのやで扱う優れた地元食材を他の飲食業者に卸す役割も担っていました。そのノウハウがそのまま「食材しのや」の店舗運営にも活きていますが、自店の看板メニューにもなり得る食材を、なぜあえて他店にも紹介しようと考えたのでしょうか。

「うちだけが頑張っても福島の魅力は発信しきれないからです。ジャンボなめこにしても、おそらく天ぷらだけが調理方法として正解ではない。洋食屋さんでアヒージョにしたり、ピザにトッピングしたりしてくれれば、よりいろんな魅力が発信できる。それによって“福島っておいしい食材がたくさんあるんだな”というイメージが広がれば僕は満足なんです。また、そうして飲食店同士が切磋琢磨し合えば福島全体の食のレベルも上がるし、“俺も頑張っておいしい食材を作ろう”という生産者も増えると思います。」

その他、2018年からは県内の生産者・飲食店・酒蔵を巻き込んだフードイベント『ふくしまフードフェス』を毎年開催するなど、篠原さんは、その企画力と行動力、推進力で、福島の食の魅力を日々発信し続けています。

そんな篠原さんには、“つくりたい世界”があると言います。

「インターネットで『Fukushima』を検索したときに、原発や津波ではなくて、食材や日本酒、そしてそれらがすべてテーブルコーディネートされた画像ばかりが出てくるような世界をつくりたいんです。日本一、世界一って胸を張って言える生産者さんが、福島県にはたくさんいます。そうした人たちが作る食材のファンをもっともっと増やしつつ、生産者さんと手を取り合いながら、そんな世界を目指したいと思っています。」


■居酒屋しのや 郡山駅前本店
郡山市中町11-1クラブ第一ビル1階
TEL 024-983-0081
https://www.instagram.com/shinoya0610/

■旬鮮直 食材しのや
郡山市小関谷地23-1 ベーカリーいずみがもり内
TEL. 070-1148-6179
旬選直食材しのや オンラインショップ – 旬鮮直食材しのや (shinoya.co)
https://www.instagram.com/syokuzai_shinoya/

取材日:2023.12.20
Interview / Text by 髙橋晃浩 (マデニヤル)
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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