マガジンのカバー画像

生産者インタビュー

53
フロンティアファーマーズのメインコンテンツ。福島県郡山市で農業を営む皆さんにインタビュー取材しました。彼らがどのように「農」に取り組み、受け継ぎ、繋いでいるのか。彼らの生の言葉で…
運営しているクリエイター

記事一覧

#53 阿武隈高地の豊かな土で育む米と野菜。全国に発信できるブランドをこの地から生み出したい

Hiro Farm 鈴木 博さん 郡山市の中心部から北東へ7~8km。阿武隈高地の山裾に広がる西田町は、農業が盛んな緑豊かな地域です。郡山を代表する観光地の一つであり、郷土玩具として全国的に有名な張り子人形の工房が集まる民芸の里、「高柴デコ屋敷」はこの西田町にあります。   その西田町で米や多品目の野菜を生産する鈴木博さん。西田町の農家に生まれ育ちましたが、農業を始めたのは40歳を過ぎてからでした。その背景にあったのは、故郷のなりわいをつなぎたいという思いです。   鈴木さ

#52 ハラペーニョに込めたい、「旨みと信念」

古川農園 古川元輝さん 郡山市では、新規就農を志す方向けに、1年かけて栽培技術を学べる、 「こおりやま園芸カレッジ」を毎年開設しています。 実家を継ぐ形で2022年に就農した古川農園・古川元輝さんも、園芸カレッジの卒業生の1人です。 古川さんは専門学校卒業後、歯科技工士として就職をしたところから、キャリアが始まりました。約10年間のキャリアを持つ古川さんが農家に転職して主にチャレンジしているのは、サルサなどには欠かせないメキシコ原産のとうがらし「ハラペーニョ」作りです。ハ

#51 夫婦二人三脚で挑戦する農園の名前の由来は「縁(よすが)」

よすが農園 寺島匠さん 郡山市では、毎年約150人から200人程度が、新規就農者として農業をはじめています。 その中で、約半数程度が県外から移住してきた方など、外部人材の方々です。 富久山町の南小泉に農園を構えるよすが農園の寺島匠さんも、2021年に東京都から郡山市に移住し、新規就農者となった農家さんです。 寺島さんが郡山に移住したきっかけは、奥さんの実家が郡山だったことから。 奥さんとは2013年に当時勤めていたスポーツ用品を販売する会社の同僚として出会い、後にテニス

#50 畑をやめるつもりだった父。受け継ぐ4代目の想いは、「たくさんの“欲しい”の声に応えたい」

濱津農園 濱津和也さん 阿武隈川と谷田川の2つの河川に挟まれた郡山市東部の田村町金屋地区。冬、ここで農業を営む濱津和也さんの畑では、郡山ブランド野菜の「御前人参」や「紅御前」がいきいきとした緑の葉を伸ばします。「ここは砂地なので人参がまっすぐ育ちやすいんです」とい言いながら、きれいに伸びた抜きたての人参を見せてくれました。 この地に生まれ育った濱津さんが農業の道に入ったのは2021年4月のこと。大学進学後は東京で生活していましたが、一つの想いをきっかけに郡山へ戻ってきまし

#49 おいしさの秘密は「圧倒的に水」。猪苗代湖の恵みで育つ郡山の鯉。この文化を残したい

廣瀬養鯉場 廣瀬 一臣さん 郡山市は、鯉の市町村別生産量で全国1位を誇る食用鯉の一大産地です。かつて郡山では、鯉の切り身を甘辛く煮付けた旨煮が結婚式などの慶事で振る舞われるなど、特別な席に欠かせないごちそうでした。しかし、時代と共に食の志向が移り変わるなか、鯉食に触れる機会は少なくなりました。 そこで 2015年、郡山市は市役所に「鯉係」を設置。「鯉に恋する郡山プロジェクト」と銘打ち、郡山の鯉の魅力を多くの人に広める取り組みをスタートさせました。以来、約 90 店の飲食店

#48 正解がないのが農業。だから面白い。磐梯山麓で兄弟が貫くそれぞれのこだわり

つちや農園 土屋 睦彦さん、直史さん 秋。磐梯山を見上げる猪苗代町の田んぼの一角に、奇抜な形をした稲干しのオブジェが毎年現れます。ある年は仙人の顔のように、またある年には羽を広げた大きな鳥のようにも見えます。高さ数メートル、幅は10メートルを超える年もあり、通りすがりの人はみな足を止めます。これを見るために田んぼを訪れる人も少なくありません。   このオブジェを作るのは、土屋直史さん。兄の睦彦さんとともに、猪苗代で8代・約300年続く農家の歴史を受け継ぎ、コメ作りに取り組ん

#47 結婚し妻の実家の跡取りに。チャレンジ精神旺盛な義父のもとトマトづくりの腕を磨く。

栁田竜二さん 多くの生産者にとって悩みの種となっている後継者問題。農林水産省が発表した「令和4年新規就農者調査結果」によると、令和4年に新規就農した人の数は全国で4万5,840人。前年に比べ12.3%の減少となりました。そのうち、家業等の後継者として農業を継いだ人の数は約3万1,400人。近年で最も多かった2015年の約5万1,000人に比べて約4割減少しただけでなく、その約7割を60歳以上の方が占めました。家業としての農業を持続的に承継できる若い後継者の確保は、多くの生産

#46 父が育てた土が生み出す甘く瑞々しいアスパラガス。その味を継ぎ、生まれ育った風景を守りたい。

松浦農園 松浦 昇さん ギリシャ語で「新芽」を意味するアスパラガス。その名の通り、地表に顔を出して数日の新芽のうちに収穫されます。成長し過ぎると硬さが増して食べられなくなるため、生産者はその成長に細やかに目を配ります。 福島県におけるアスパラガスの生産は会津地方で特に盛んですが、郡山でもおいしいアスパラガスが多く栽培・出荷されています。市内田村町守山の松浦昇さんは、郡山を代表する若手アスパラガス生産者の一人。ハウス24棟に加え、6,000㎡の土地を使い露地栽培にも取り組ん

#45 「良いところは残しつつ時代に合わせアップデートを」。未経験から飛び込んだ肥育農家3代目の挑戦。

肥育農家 佐々木顕仁さん 福島県産の牛肉の中でも、脂肪の混ざり具合や肉のきめ細かさで特に優れた黒毛和牛だけが名乗ることができる「福島牛」のブランド。そこからさらに高い肉質であることを示す4等級以上の肉は「銘柄福島牛」として市場で高く取引されます。 ここ20年ほどで急速に宅地や商業地の開発が進んだ郡山市の八山田エリア。その外れに、開発の時の流れをひととき忘れさせる風景が残っています。佐々木顕仁さんは、この地で半世紀以上続く肥育農家(家畜市場で子牛を購入・飼育し食肉処理施設に

#44 「ひとまずやってみる。合わないならやめればいい」――予約が絶えないイチゴの味を支える柔らかな取り組み

イチゴ農家 栁沼宏樹さん 2022年末、福島県で20年ぶりに開発された新種のイチゴが市場に登場しました。その名は「ゆうやけベリー」。「とちおとめ」と「かおり野」の2品種を交配して生まれました。開発に費やした歳月は10年。満を持してのスタートです。 生産初年度となった2022年シーズンにこのゆうやけベリーを手掛けたのは、県内各地から選ばれた14の生産者。郡山市片平町の栁沼宏樹さんはそのうちの一人です。片平町内に11棟のビニールハウスを持ち、年間約7トンのイチゴを生産していま

#43 アニマルウェルフェアに基づくストレスのない環境から生まれる「本宮烏骨鶏」の平飼い卵。その濃厚な味わい

一般社団法人本宮烏骨鶏生産組合 鶏舎リーダー 大塚利明さん 近年、スーパーや農産物直売所の卵売り場で「平飼い」の文字を目にする機会が増えてきました。平飼いとは、鶏卵の生産において長く一般的な飼育方法となっている「ケージ飼い」ではなく、鶏たちに十分な活動スペースを与え自然に近い形でストレスなく産卵を促す飼育方法のことです。 安心・安全な食品を求める消費者が増える中、家畜にとって快適な環境で飼育しストレスや疾病を減らすことで安全な畜産物の生産につなげる「アニマルウェルフェア」

#42 120年続く「阿久津曲がりねぎ」のおいしさを次の世代へ。親子で取り組む伝統野菜の継承

阿久津曲がりねぎ保存会 橋本昌幸さん、橋本典彦さん 郡山市の伝統野菜として知られる「阿久津曲がりねぎ」。名前の通り、スーパーなどでよく見かけるまっすぐなねぎとは違い、大きな弧を描いた姿をしています。郡山市の中心部から北東へ約3km。阿武隈川の東岸に位置する阿久津町では、今からおよそ120年前からこのねぎが作られてきました。 2022年2月、阿久津曲がりねぎは、農林水産省の「地理的表示(GI)保護制度」に登録されました。地理的表示(GI)保護制度とは、「地域ならではの自然的

♯41 「この地の田んぼを減らしたくない―」。安積疏水140年の歴史をつなぐ女性生産者の想い

鈴木農園 鈴木麻友さん 郡山の広く美しい田園風景を支える母なる水路、安積疏水。2022年、通水140年の節目を迎えました。高低差を生かして猪苗代湖から郡山盆地へと流れ下るその水路は市内西部一帯に広範囲に張り巡らされ、郡山を全国屈指の米どころへと育てました。 市内安積町で長く米作りを手掛ける鈴木農園では、そんな安積疏水の豊かな流れに守られながら、代々家族で米作りに励んできました。田んぼは安積町のあちこちに広がり、その面積は62町歩を誇ります。 田んぼにお邪魔すると、若い女

♯40 横浜から母のふるさと郡山へ。農業は「自分のやり方一つで未来をいくらでも変えられる仕事」

きゅうり農家 濵野 泰之さん 郡山市東部、市街地から見て阿武隈川の対岸に位置する横川町。郡山駅から直線距離で2kmあまりの近さですが、起伏のある土地には今も多くの緑が残ります。 「以前このあたりの酸素濃度を測ったら、酸素カプセルに近いほどの酸素濃度がありました。そのせいか、他の場所からここに来て泊まると、みなさん“熟睡できる”と言ってくれるんです。」 そう教えてくれたのは、この地で2018年に農業を始め、現在主にきゅうりを栽培する濵野泰之さん。きゅうりは成長が非常に速く